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ブエノスアイレス 4Kレストア版のinのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

初ウォン・カーウァイ監督。

たまらなく好きだ。物語はガチャガチャでカオス、なんだこれはという展開なのだが、あとでwikipediaを読んだら撮影が押しに押してレスリーチャンが自分のコンサートのため帰国せねばならず、収集がつかなくなり急遽チャン・チェンが招かれて継ぎ足された結果らしい、なるほど。

でもその綺麗に収まってないあたりがまた、どこかのだれかの実人生らしくて、いい具合だったな、好きだ。人間が強くそこに存在していればそれは良い映画だ。
春光乍洩、Happy Together、原題も英題も日本のも、それぞれにいいですね。英語のが一番好きかな。

配信ではなくでかい画で見て良かったのがイグアスの滝。結構長めの尺だけど、あそこだけずうっと眺めていられる。すべてを飲み込む濁流、巨大で荘厳で畏いもの。鳥の群れらしき黒い点々が舞い散っている不穏、こんな物凄いところにも生きているものがある、水飛沫を受けて見下ろしながら飛ぶ鳥たち。

シーンとシーンの繋ぎに説明がなく、普通「数日たちました」ならそうわかる画をいれるものなのだが、さっきの続きで突然三日後くらいのシーンに切り替わっていて、そんな調子で過去にもふいと戻るものだから(ちがうのかもしれない、ボヤボヤみてたので自信がない)はっきりしない夢みたいだ。

二人がいて、それぞれが思ったように生活し、調子が合うこともあれば、まったく合わずにざりざり削りあったりぶつかって弾き飛んだり、なんか自分の実家の人々みたいな暮らし方だな、と思った。うまくやれないねものですね。これを切ないと呼ぶか、愚かと言うか。
欲しいもの、したいこと、できることが噛み合わない悲しみよ。

上から撮られたイグアスの滝は地獄への入り口みたいだった、人間の業なんてぜんぶ簡単に飲み込んでしまう口です。
でもあれを下から見上げて飛沫でびしゃびしゃに濡れて笑うウィンにはどう見えたんだろうね。何か洗い流せた気分だったかな。一方でチェンの行った果ては天国行きの便でも出そうな岬だった。お前は爽やかな男だ。

「次の恋」を得て人生を進めるウィン、「低めの落ち着いた声」でチェンと少しフラグをたててるのもロマンチックでいいじゃないか。希望があるというのは生きることができるということです。それ(チェンはウィンの低い声が好き)を知ってるのは観客のみだけど、その後ウィンも別の形で希望を得ます。

「生きていればいつか会える」のは、チェンもだし、ファイも、父も、みなそう。生きて歩いてれば何かの拍子に再会もできるかもしれない。いいなあ、携帯電話のない時代!
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