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島守の塔のnetfilmsのレビュー・感想・評価

島守の塔(2022年製作の映画)
3.5
 兵庫県出身の知事・島田叡(萩原聖人)と栃木県出身の警察部長・荒井退造(村上淳)という2人の人物が沖縄戦の最前線に駆り出される。『ひめゆりの塔』を筆頭に、岡本喜八の『激動の昭和史 沖縄決戦』など、もはや散々知り尽くした第二次世界大戦の中の沖縄戦だけに気が重いが、2人とも「うちなんちゅ」ではなかったという事実は何たる皮肉だろうか?知事として初めて迎えられるという嬉しい報せにも関わらず、赴任先が「沖縄」だと聞いた家族の表情は皆一様に重い。当然だ。職務を全うしようとする気持ちとは裏腹に、住民保護とは相反する戦意高揚へと向かわせることへの葛藤と苦悩。それが空回りした形で噴出したのは突然『てるてる坊主』を歌い出す場面だ。だが皮肉にも島田の空元気は「うちなーんちゅ」に元気を与えることとなる。だが刻一刻と変わる戦況は徐々に日本側が旗色を悪くする。県政の責任者として軍の牛島満の命令を受け、鉄血勤皇隊やひめゆり学徒隊として多くの青少年を戦場へと向かわせていた。軍の命令は絶対だった当時の傷ましい判断だった。苦悩と葛藤という十字架を背負いし二人は、戦禍が一層激しくなる中、命がけで県民の疎開に力を尽くした。一億総玉砕が叫ばれる中、敗走しながらも、島田は命どぅ宝(命こそ宝)と訴え、生き抜くよう伝えて行く。

 赴任した沖縄の地で暮らす人々の大らかさに触れ、ますます生きることの重要性に帰結した島田叡の生きざまを萩原聖人は多少大仰な感はあろうとも感情優先の演技で押し通す。逆に村上淳扮する荒井退造の演技は当時の警察官だから本当はもっと武骨な人間だったのだろうが、柔らかい抑えたトーンに徹している。それゆえ2人の間に割って入るような「うちなーんちゅ」の比嘉凛(吉岡里帆)の登場が活きるのだ。然しながら戦場の描写に関しては写真とその上に太文字で書かれた沖縄県人の死者数が明らかにされる一方で、地獄のような戦場の描写は殆ど出て来ない。当然、最初から横たわる死体からは異様な匂いが感じられない。これ今の日本映画における製作費との兼ね合いを考えれば致し方ないことだとわかってはいるものの、戦争映画としては明らかに的を外している印象は否めない。ここに在るのは死に絶える者の言葉であり、それ自体が本当は生きたかったであろう人々の感傷的な死を少し大袈裟な形で伝えたに過ぎない。だが映画は何よりも映像であり、言葉ではない。そのハッとする様な映像が今作からは感じられない。島田叡の人となりを知りたければ、ドキュメンタリー『生きろ 島田叡 戦中最後の沖縄県知事』を観る方が賢明だ。
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