Omizu

チャイコフスキーの妻のOmizuのレビュー・感想・評価

チャイコフスキーの妻(2022年製作の映画)
3.9
【第75回カンヌ映画祭 コンペティション部門出品】
『LETO』キリル・セレブレンニコフ監督作品。カンヌ映画祭コンペに出品された。

超弩級の問題作。自由自在に動き回るカメラ、鳴り響く音楽はセレブレンニコフの真骨頂。二時間半がまるで悪夢のようだった。

撮影がもの凄い。動き回るのもスゴいけど、映画における異時同図方というのかな、異なる時間軸の話を同時にカメラに収めるという手法が効果的。

セレブレンニコフは音楽に結構こだわっている。今回は作曲家の話だから当たり前なんだけど、まるで悪夢の中にでもいるような音楽使いに(良い意味で)心底不快にさせられた。

そうした技術も超弩級なのだが、物語としても非常に重く苦しい。「悪妻」と呼ばれた妻アントニーナ、彼女が実はいい人でしたとかそんな浅い話ではなく、「愛に取り憑かれた人」として描かれているのが深い。自分にしかチャイコフスキーを愛せないという執念がどんどん積み重なっていく。彼女も彼女で自分の人生を生きようとしたんだなぁと哀れになってくる。

好き嫌いを超えて観客へ迫ってくるような作品。セレブレンニコフのこだわり抜いた画面作りや音演出も相まってこれはちょっとスゴい作品だった。本作について好きか嫌いかを言うのは野暮だ。それを軽く超えてこちらへ押し寄せてくるような作品。セレブレンニコフ恐るべし。
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