EOが辿る道々で示される人間の愛情、優しさ、醜さや残酷さ。ロバの視点で描かれる人間世界の旅だった。ロバと馬の対比はみにくいアヒルの子にも感じたしその後の展開は母を訪ねて三千里(恋愛バージョン)のようで美しく壮大な映像や音楽にも心打たれる。時折挟まれるフラッシュバックとEOの瞳はなんとも切なげだった。
しかし、別にEOの感情が語られるわけではなく、実際ロバが何を考えているかなんて到底知り得ない訳で。挟まれるフラッシュバックも物憂げっぽいと感じる瞳も切なそうに聞こえる鳴き声も何の意味も無いのかも知れない。誰が殺されようがそこに禁断の愛があろうが世界がどんな姿をしていようがEOには(実害がない限りは)何の関係もないし、EO自体何の意思もなくただ気の向くままに歩いていただけかも知れない。もっとどうしようもないことを言えば結局あのロバたちは(あの馬のように)映画撮影に使われているだけな訳で。EOの姿にドラマを感じてしまうのは人間の想像力や共感能力の為せるわざで、それは人間のとても優れた部分ではあると思うけど(だから映画を楽しめている訳だし)、時にそれがもたらす勝手な解釈はエゴに満ちていて、実はEOに勝手にドラマを感じること自体がとても傲慢なことなのかも知れない。愛護団体がサーカスは虐待と訴えたことも、サッカーの試合の結果をロバに結び付けたことも、今作をロバのドラマと解釈するのも、結局は人間のエゴによって為されたことであり、それによって1頭(撮影的には数頭)のロバが振り回される。ロバは何を思っていたのか・・・分からない。ロバは幸せだったのか・・・余計なお世話。人間が思う全てはあくまで人間のエゴであり動物にとってそれは関係ない事なんだろう。自然と動物への愛情から制作されたという事だけど、単純に動物愛護を訴えるとかじゃなく人間のエゴと自然の関わり方の根本の部分に疑問を投げかけた一筋縄ではいかない作品だった、と勝手に受け取りました。
勝手に解釈しながら作品を観ると、動物愛護団体の抗議から始まって自然界側の様子や登場人物たちのどうでもいいドラマを経てのあのラストって物凄く皮肉が効いていて個人的にはとても好きでした。人間のエゴだけじゃなくて所々に人間の大いなる無関心が感じられるのも「本当に性格の悪い映画(褒め言葉)だなぁ」って思いました。
もうすでに3本くらい観てると思うんだけど、今年はロバ映画の年なのかな?