いつものようにシャープなスコリモフスキ。ロバのEOの悲しげな眼差しを捉える広角レンズのクロースアップショットは『GUNDA／グンダ』を想起したりする。ロバ視点の冒険譚では、人間は点景にすぎない。EOを愛でるサーカスの女は、頬ずりや手の感触でEOの記憶に刻み込まれている。その他多くの人間はロバ視点でも愚かしい。EOを使役するサーカスの男、騒ぎ立てる動物愛護団体、諍い合うサッカーの応援団、EOに蹴り殺される毛皮動物飼育員、不法移民の女を招き入れて喉を搔き切られる家畜トラック運転手。中では、イザベル・ユペールが真正面で登場したショットには度肝を抜かれた。その後、真っ赤なスーツと10センチヒールで歩きながら皿を一枚ずつ床に放つユペール様の不穏な雰囲気ったらない。人間が登場しない場面も雄弁だ。森の中を緑のレーザー光線が何本も走ったり、ボストン・ダイナミクスの犬型ロボットがのたうつ。なお、スコリモフスキが映画を観て唯一泣いたという『バルタザールどこへ行く』のラストは再現されない。
