かなり悪いオヤジ

EO イーオーのかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

EO イーオー(2022年製作の映画)
3.0
大作『TAR』(158分)を見た後だと、上映時間たったの88分という本作のスケールの小さがやたらと気になってしょうがない。長けりゃいいというわけでもないが、内容的にも本作はかなりスカスカだ。オマージュ元の『バルタザールいきあたりばったり』は、主人公のロバ君に悪逆非道の限りをつくす人間の愚かさを、ブレッソンらしく宗教的演出で描きあげた作品だ。バルタザールのしっぽに火をつけたり、お尻の皮が剥けるほどムチで何度も打ちつけたり.....今の時代、そんな演出をしようものなら一発アウト。動物愛護団体からの即クレームで上映禁止のおとがめを食らうこと必至なのである。

では、ポーランドの巨匠イエジー・スコリモフスキーがロバのEOに何を見せたかというと、現在のポーランドが抱えるいろいろな社会問題である。くまのプーさんに出てきたロバの名前が確かEOだった。ロバ特有のいななき「イーオー」から名付けられたと思われるのだが、本作のEOにはおそらく別の意味が被せられている。EUに加盟したポーランドという意味を別途背負わされているのではないだろうか。ポーランド国旗をイメージさせる“赤”を基調としたライティングが、尚更そう感じさせるのである。

お約束の動物愛護団体の反対でサーカス団から解放されたEOは、そこでサラブレット(特に葦毛)たち=EU先進国から差別的待遇(LGBTQ差別国家としてもポーランドは有名)を受け脱走。「青と白(ウクライナ侵攻のロシアに対する抗議シンボル)が俺たちを強くする」と歌うサッカーチームのマスコットにされるが、親ロ派と思われる敵チームの襲撃を受けEOもついでにボコられてしまう。ウクライナを指示するポーランドが、ロシアを指示するハンガリーよりも逆に困窮している現実を反映したのだろうか。ここで登場する○○○○○EOがなんとも不気味。頭の欠損したその姿は、思考を捨て悪の凡庸に染まってしまったポーランド人を揶揄したのかもしれない。

再生可能エネルギーとして期待されている風力発電の羽根にあたって野鳥が激突死、森にすむ狐たちは密猟のターゲット。そんな環境破壊への懸念や、外国からの移民流入によりポーランドの治安が悪化する様子を、荷台につまれたEOはつぶらな瞳でただ静かに見つめるのである。そして問題は、フランスの名女優イザベル・ユペールとイタリア人俳優ロレンツォ・ズルドロが登場するシーン。なぜかここだけ他とはまったくトーンが異なっていて、映画の雰囲気を目茶苦茶にしてしまっているのだ。

おそらく、出資を受けるにあたり2人をキャスティングすることが前提条件だったと思われるのだが、ほとんど気合いの入っていないユペールの演技もさるとこながら、これほど本編から浮いているシークエンスが含まれた映画というのをこれまであまり見たことがない。加盟はしたもののどことなくEUから浮いた存在のポーランドのメタファーというわけでもないのだろうが、何をどうしたらあんなどうでもいいシークエンスをぶちこもうなんで気が起きるのか。皆目検討がつかないのである。