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逆転のトライアングルのスペクターのレビュー・感想・評価

逆転のトライアングル(2022年製作の映画)
4.3
前作に増して格差社会に言及し、過去作に増して外連味(表面上の面白さ)が溢れている。
モデル達のインタビューシーンで既に好きな映画確定。バレンシアガとH&Mのくだり最高www 。ブランドはイメージを高い金で売っているのだと。

憧れの目で見られるモデルだけど、ここでは物として扱われ、いい加減で薄っぺらいイメージの下で動かされる存在として描かれる。ランウェイのスクリーンに出てくる言葉に注目。会場の席シーンから格差を強調してくる。

カールとヤヤの食事代どちらが払う問題。からのタクシー、エレベーターの口論。そのときに入る雑音がさらに見る人をイラつかせる。エレベーターに関してはそこで揉めるなよ!と笑いながら見てた。
ヤヤは確かに美人だけど、ああいうズルくて打算的な女は好感度下がる~。
自分も社会的には強者ではないことを分かっている風の発言しているのに、ヤヤのカールに対してのマウント取っているのが滑稽に見える。
実際男性モデルのギャラは女性モデルの3分の1らしい。

カールとヤヤは何とか仲直りをして豪華客船へ。2人が可愛く見える程クセの強くてワガママな超金持ち達と顔を合わせる。チップ欲しさに彼らに媚びへつらう客室乗務員、更にその下で働く清掃員、機関士、船を守る警備員。この船自体が分かりやすい社会の縮図。途中カールの苦情で乗務員が1人即クビになるが、この後起こることを考えると彼は運が良かった。

そんな中で金と暇をもて余した金持ちのワガママに付き合わされる。「人は平等であるべきよ。」という主張からの全員今すぐ遊びなさいと命令を下す矛盾。
ためらいながらも従う乗務員のアリシア。個人的にはヤヤよりも彼女の方がタイプ。結果的にはこのワガママのせいで船が惨劇に向かっていく訳だけど…。

金持ち達の相手を優先させられることに嫌気がさしたキャプテンが無責任なのも惨劇(この映画最大の見せ場)を加速させる。
既に船が揺れ始めているときにディナー出されても、と笑いながらツッコんでいた。
「バビロン」のゲロシーンは必然性がなかったけど、これはあるから汚いけど、問題ない。あと昼間のワガママで食材が傷んでたんだろう。
惨劇が続く中でロシア人の資本主義者とアメリカ人の共産主義者が討論し、仕舞いには意気投合する。

とにかく船がめちゃくちゃになってからの海賊に襲われ~の爆発。

無人島に流れ着いてからの立場の逆転の仕方が見事。船では見向きもされなかったフィリピン人の清掃婦アビゲイルが頂点に立つ。

豪華客船を降りて避難ボートに乗るシーンが無かったのはこの映画のテーマ的には重要ではないからだろう。

カールとヤヤの立場も逆転する。カールがアビゲイルに自分のビジュアルを対価にして取り入り、恩恵を受ける。
性的搾取は男性が女性に対してするイメージだが、女性が男性に対して同じことは大幅に減るとしても無くなることはないと言わんばかり。

ロバが出てくたあたりから勘の良い人は気づいていたかも知れないけど、終盤あることが判明してからある人物が凶行に及ぼうとする。

集団生活や文明社会に存在する身分、階級というピラミッド(三角形)は逆転することはあっても無くなることはないという悲しい本質を突いている。
カールのようにその中で足掻くことしか出来ない。そんな着地で不穏に曲が流れて終わる。

監督は自分が上流階級にいることを自覚した上で、戒めるように作品に取り組んだとか。
ヨーロッパ人的な問題意識をシニカルにかつ感情的に描いている。情報量が多くて読み解き甲斐があるオルトルンドの新たな代表作だと思いました。

NetflixかAmazon Primeでも良いからこの人の新作が待ち遠しくなった。
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