スペクター

アウトローのスペクターのネタバレレビュー・内容・結末

アウトロー(2012年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

アメリカンニューシネマへのオマージュにとにかく溢れている。

トム・クルーズは1980年にデビューした人だからその時代を経験してない。
「ミッション・インポッシブル」みたいな超絶アクションじゃなく、たまにはこういう映画に出てみたいと思ったのかも。
そして本作はジャック・リーチャーがいかに社会の枠組みに縛られないアウトローかつ凄腕の捜査官かを紹介する映画でもある。
原作だと巨漢って設定らしいけど、浮世離れしたアクションスターという世間のイメージをトム・クルーズが利用して説得力を持たせようとしている。

70年代ならクリント・イーストウッドやチャールズ・ブロンソン、スティーブ・マックィーンが演じてそうな役、ロバート・レッドフォードでもいいかも。
オープニングも「ダーティハリー」1作目みたいに狙撃シーンから始まる。
容疑者のジェームズ・バーもスコルピオに少し似ている俳優が演じている。これは絶対意図的なキャスティングだと思う。
「ダーティハリー」でもスコルピオは最初の殺人事件では野放しになり、その後犯罪に走って主人公が最後裁きを下す。本作でもバーとリーチャーの関係は似ているんだけど、本題となる無差別殺人に関しては違うみたいだと…。ジャック・リーチャーがそれをいかに立証し、いかに黒幕の正体と目的を暴くかという流れ。

最初に実行犯を明かしちゃうってのは70年代でもテレビの「刑事コロンボ」の手法。こういうって主人公の台詞、言い回しのセンスが問われるけど、本作はかなり良い。何回でも見返したくなる。
「バーの狙撃の腕は普通だった」と前置きしつつ過去の手口と事件現場の矛盾を指摘する。
言われる前から思ってたけど、サングラスしながら走ってる標的を一発で撃ち殺すって相当の腕だよね。しかも使い慣れていない他人の銃で。

主人公が嗅ぎまわっているの知った黒幕がリーチャーを何回か潰そうとするが、彼なりの機転で回避する。途中のカーチェイスなんかも「ブリット」を思わせる。その後帽子を貸してくれた理由は相手が黒人というのがポイントかも。警察を信用してなくて、何らかの事情を瞬時に察してくれたとか。

その過程で目的のためなら関係無い人間を平気で巻き添えにし、司法もあざ笑う黒幕の規模と凶悪さも明らかになる。そこにさらに捻りが加えられている。
こういう外道を倒せるのは正義のアウトローだけという盛り上げ方も良い。

終盤の採石場での戦いは西部劇を思わせる。西部劇なら馬車に置き換わるであろう車で銃撃してくる敵の本拠地に殴り込む。途中で出会った助っ人の力を借りながら、1人ずつ敵を殺していく。この助っ人を演じてるロバート・デュヴァルはまさに70年代の映画群で活躍した人。
採石場っていうのが奇しくも「ダーティハリー」のラストと同じという。
黒幕の用心棒チャーリーとのサシの勝負も途中で殺されたサンディの仇討ちとしてカタルシスが強い。「お前は楽には殺さん!」という心の声が聞こえる。

ラスボスとは自分にしかできないやり方で決着をつけ、バーの処遇と黒幕の調査に関しては弁護士でヒロインのヘレンに託す。最後のバーとのやり取りでヘレンは検事である父親に彼の無実を確信させる。

本作で訴えるメッセージとしては先入観を捨てて客観的に相手を見れるかということ。
被害者の境遇や遺族の感情に流されず、容疑者に似た前科があったから今回も犯人に決まっているといった偏見に囚われずに分析ができるか。
警察や法曹関係の人にとって重要なことだが、誰でもできる事じゃない。けど、ヘレン達の胸に確実に刻まれたという形で終わる。

ツッコミ所はある。中盤、主人公が浴室で男達に襲われるくだりは急に笑わせようとしてるのかっていうくらいトーンが変わる。二人がアホ過ぎて主人公もリアクションに困ってた。あと電話を切ったり、かけ直したりを繰り返すくだりもコメディーとかで見るヤツじゃん。

ただ原作の魅力、意図を汲み取った上でオリジナリティーを盛り込み、トム・クルーズのスター性も活かす演出の確かさ。製作費の3.5倍の興行成績。

後に「ミッション・インポッシブル」5作目以降の監督クリストファー・マッカリーがトム・クルーズの信頼を勝ち得た理由がこの一本からも見てとれる、この人できる!
サスペンスアクションとしてはかなり完成度が高いと思う。まだ見てない人はぜひ。
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