ベルベー

アルマゲドン・タイム ある日々の肖像のベルベーのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

最近監督たち自分の人生振り返りたすぎない?というのはさておき、ジェームズ・グレイは前作の「アド・アストラ」が自分には合わなかったんだけど今回は感銘を受けた。黒人が同じ学校に通うことさえも大人達が嫌がったのはたった40年前なのだ。その時代に少年時代を過ごした監督だからこその、人間に対する諦めと悲しみ、でもだからこそ次の世代に問いかける作品になっていたと思う。君たちはどう生きるか。

監督の投影たる主人公の少年が普通にめっちゃくちゃクソガキというところがミソ。食事のシーンとか本気で腹立つよね。お母さんがいろいろ忙しい中頑張って作った料理を「どうせまずーい笑笑」とdisってピザ屋に「もしもーしピザくださーい笑笑」と電話する…親父じゃなくても鉄拳制裁しちゃいそう。アン・ハサウェイ可哀想。

と言いつつ、この両親が「今の価値観」的に良い人達だったかというとそうではないのがもう一つのミソ。保守的な家父長制で暴力を是とするし、黒人は「別の生き物」として下に見てる。それが善ではないことを察しつつ。そんな大人が大多数だった。だから、最後に主人公の親友は、主人公と同じくらいクソガキで、でも良いやつで、宇宙飛行士になるという夢を持っていた少年は窃盗転売の罪を一人で背負うことになる。

そして主人公はその後悔と恥を抱えたまま、夢であるアーティストとして大成することになるのだろう。だってこの少年はジェームズ・グレイ本人なのだから。クライマックス、父親が語る社会の仕組みに主人公は反論できない。彼の瞳にうつる罪悪感は監督自身のものでもある。

スピルバーグは「フェイブルマンズ」で「映画の才能ありすぎてゴメン…」とスピルバーグくらいしか持たない罪悪感を吐露していたが、自分の出自についてはやたら過小評価していた(ように、90年代生まれのアジア人種としては思う)。しかし「アルマゲドン・タイム」には白人として生まれた故の罪悪感がある。祖父以外の家族から軽んじられる不出来な弟、学校に馴染めないナードという意味では下の階級だけど。別の角度から見たら、彼は上の階級に属している。「フェイブルマンズ」よりこっちの視点の方が強く共感したな。

別の角度から見たら…といえば、本作では明確な悪人は存在しない。同時にアンソニー・ホプキンス演じる祖父というキーキャラクターを除いて、明確な善人も存在しない。誰もが良い人で違う視点から見たら悪い人。息子想いの母親も黒人を差別するし、典型的マスキュリニティな父親も息子を想っている。劇中、ジェシカ・チャステイン演じる学校の偉い人が公明正大で凄く良いスピーチをするが、彼女の名前はマリアン・トランプ。彼女の善意に嘘はないだろうけど、彼女が恵まれた傲慢なトランプ一族であることも確かなのである。

振り返れば振り返るほど良く出来ているし真摯な映画だ。「リトル・オデッサ」とか「エヴァの告白」とか監督の過去作ちゃんと観てみよう。
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