キナ

クライムズ・オブ・ザ・フューチャーのキナのレビュー・感想・評価

4.2
退廃的な街並みを舞台に、噎せかえるほどの官能と偏った嗜好を詰め込んだ性癖映画。

正直、ストーリーに移入はできない。
本筋はギリギリ理解できるが、それぞれのキャラが何を言っているのか、何に心動かされているのか、何故そこで涙ぐむのか、ディテール的な部分がわりとずっと分からなかった。
ただ展開が全く予想できないので常に先が気になり退屈することはなかった。

物語の中身よりもパフォーマンスアートやそれに魅了される人たちに強く興味を持った。
意識あるままの解剖ショーや肉体改造ショーは非常に興味深く、インパクトある映像体験を得られる。
肉体に刃物が入るたび恍惚とした表情を浮かべる様子に私もかなり高揚し酔いしれてしまった。

ただ私は痛みと快感は相互関係だと思っているので、なかなか理解しきれない部分も多い。
肉体への加虐が快感や恍惚に繋がるには「傷=痛み」の前提がないと成り立たないのでは。
例えば元々痛覚のあった人が突然それを失った場合、本来痛いはずの行為が痛くないことに対して興奮を覚えるのは自然な流れだと思うのだけど。

この映画は痛覚が失われてから何世代目くらいの段階での話なんだろう。
痛みを知らない人が傷に魅了されるにはどんな理由があるのか。
痛みが失われた中で肉体を傷つけられたとき、どんな感覚になるんだろうか。
もしかして気持ちいいの?でも「古いセックス」こと性行為は普通に存在しているみたいだし、直接的に快感になるならもっとカオスな世界になっていそうだし。

観ている側の昂りを考えても、やはり痛みはあった方が良いと思う。
麻酔なしの手術ショーを見ることで間接的に自分も痛みを感じられて気持ち良いものじゃないの?
少なくとも私はそういう側面があるからスプラッタ映画を観たりホラー小説を読んだりボディサスペンションショーに足を運んだりしているので。

ともかく、痛みがないという前提が快楽を減少させている気がしてならず「絶対痛い方がいいよ!」と余計なお世話なことをずっと考えていた。
妙にエロティックな手術ショーを称したティムリンには全面的に同意するけれど。

それともあまり感覚的なところには重きを置かず、わりと純粋にアートとして楽しんでいるのかも。
痛みがなくとも人の体を傷つけるのはタブー、だからこそショーアップされた時に鑑賞したくなるのだろう。
切られる側は自分の肉体に変化を施されること自体に興奮を覚えているとか。
性的な意味を含んでいるのは一部の演者だけってことかな。

プラスチック食を強制インストールするグループの発想がシンプルに一番狂ってて好き。
異食を常とするこの人たちの排泄物が気になる。
環境有害物質を消化したあとの排泄物や排ガスは果たして無害なのか。
それを処理する下水や同化する空気に影響はないのか。
ただ内臓を入れ替え進化させたところで浄化する機能まで兼ね備えられるだろうか。

食事補助チェアの不便さには笑った。
あれは身体を揺さぶることで胃に届きやすくしているのだろうか。
出てくる機械が全て肌や骨や虫や両生類のような有機物モチーフの大変好きな造形で良かった。
ベッドもイスもどう見てもエイリアンに寄生された人間にしか見えなくて大変よろしい。
機械整備士の女性コンビがしっかり変態で可愛かった。、
キナ

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