きゅうりのきゅーたろう

聖地には蜘蛛が巣を張るのきゅうりのきゅーたろうのレビュー・感想・評価

聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)
4.3
聖地マシュハドで娼婦ばかりを狙った連続殺人事件が発生する。ジャーナリストのラヒミは現地に乗り込み真相を暴くべく独自に事件を追う中で犯人逮捕に貢献する。殺人犯はごく普通の家庭を持つ男で優しい一面を持ちながら、殺害の動機について「街を浄化するため」だと答え、世間では動機に賛同する者までもが現れ…というお話。


アリ・アッバシ監督は前作の『ボーダー』で壮大な置いてけぼりを食らった記憶があったのでリベンジも兼ねて鑑賞しましたが、今作はめちゃくちゃ好きでした。

何が良かったって、こんな日本とは全く違った道徳感に触れられることなんて映画でしかなかなか味わえないところを見せてくれたところです。
人の命は何よりも重いと我々は通念として持ってる訳なんですけど、国が変われば人命よりも道徳や教義的倫理が勝る場合なんてものはザラにあるということです。

ですので、マクロの視点で見ると、この映画を見て、「犯人を即刻死刑にしないなんて終わってる!」とか「イスラム教は野蛮」みたいな感想しか浮かばないのであればそれは結局、この犯人がやってることと同じで、西洋かぶれの民主主義こそ最高!っていう思想の押し付けでしかない。
そういう、言わば『文化的侵略』の種が自らの中に芽生えていることをまざまざと見せつけてくる厭な部分に惹かれました。

またミクロ的に見ればミソジニー的思想とか男女平等云々みたいなことも色々あると思うんですけど、結局は僕らが金科玉条のごとく大切に思ってることもこの犯人の動機も優先という観点から見ると大差ないです。