このレビューはネタバレを含みます
社会全体がシステムエラー。
先進国では多様性が叫ばれて久しいけれど、今回の舞台となる中東はその真逆にある世界と言えますね。
多様性を重んじる以上、他国の文化や宗教に口を出したくはないけれど、この世界のミソジニーには反吐が出ます。
日本でこれだけの事件を起こせば、犯人固有の問題として取り上げられて、生まれ育った環境や現在の人間関係、懐事情などが洗いざらい取り上げられるでしょう。
でも中東のイスラム社会に身を置いていると、サイードという犯人そのものの問題は些細なことであると嫌でも分かる。特に後半部分でそれが明白になっていく。
普通に考えれば、サイードは16人もの女性を手に掛けるような男じゃない。ド素人です。
顔も隠さずに同じバイクに乗り同じ手口。
あの豪快な娼婦を相手にモタモタモタモタ……刺すの?やめとくの?ブラックコメディのような振る舞い。
日本であれば、2人目の被害者はまず出なかっただろう。
世の中の声を背にして、肥大化していくのがとても哀れなんですが、明るみに出てしまった以上、様々な角度からの体裁を考えて、処罰はされるんですよね。
結局、娼婦の首を絞め殺し続けた男は、使い捨てのコマのように扱われて、最後に絞首刑を受ける。
恐怖の表情でジタバタし、あっさり生涯に幕を閉じる姿は、惨め以外の何物でもありません。
16人の女性を手に掛け、それなりの層から支持を受けたとて、その背後にはもっと大きな社会の力が働いてしまっている。
やっと終わった……と思ったところに、最後の最後で息子の殺人模倣シーンを持ってくる展開。エグい。
この社会的な価値観が、これまでもこれからも終わることなく受け継がれていくという示唆。
宗教、ミソジニー、貧困、権力の腐敗など、様々にこんがらがった糸が解ける日が来るとは到底思えないところに絶望を感じました。
ポスターの人物って、あのパワフルな娼婦?
と思ったので調べてみたら、やはりそうでした。
以下引用ですが、
「前髪がヘジャブから出ているか、あるいはヘジャブが背中にずり落ちているかして、警官がいたら即逮捕、という姿になっています」
とのこと。