ちこちゃん

聖地には蜘蛛が巣を張るのちこちゃんのレビュー・感想・評価

聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)
4.0
事実から作られた映画です
イランでも聖地である宗教色の強いマシャドで、娼婦が16人も殺害された連続殺人事件に対し、女性ジャーナリストがその事件を解明しようと権力と対峙するストーリーです

英語のタイトルは「holly spider」、多分「聖なる物」に絡め取られる人間を描きたかったので、このタイトルなのかと思いました

もちろん宗教に傾倒して、狂信的になる人間と、それを使用する権力、そして三権分立がない国の怖さ、それらが描かれて、恐ろしさと同時に日本やいわゆる司法が独立している国ばかりが、世界にあるわけではないことを理解することができます。つまり、我々が常識であると考えることは、ある種の国では常識たり得ないことをあらためて気付かされます

ただし、イスラム教について知識があれば、より深く理解できるところもあるかもしれません。
私も半端な知識しかないですが、イスラム教は教徒にとっては人生そのものだと思います。朝、夜明け前のアザーンで起き、お祈りをし、また寝る。そしてそれから決まった時間に4回、1日計5回のお祈りを捧げます
結婚、離婚、相続、などなど民法に関することも全て経典の解釈が適応されます
それだけでなく、女性の在り方、男性と女性の関係なども宗教が支配するので、未婚の女性がで歩くときは、親兄弟親戚の男性と共に外出すべきであるとか、髪は男性を誘惑するので、ヘジャブを着かなければならないというような宗教上の決まりがあり、それを取り締まる道徳警察が存在するということになるのでしょう。

私がイランに行った時、ネックレスを試着するのに、ヘジャブが邪魔なので、取ろうととしたら、ガイドさんから、道徳警察に逮捕されるからやめてくれと言われたのを思い出しました

したがって、イランのように宗教によって国家を運営するところでは、法律=経典になります。ただし、経典には解釈が必要であるので、ウラマーという教師が必要であり、権力を持つのでしょう

そんな環境で生まれ育った人間の中には、経典の中で非難されることや禁忌事項を行う人間は、粛正されても仕方ないのだという狂信的な人間を生んでしまうのだと思います
それは「聖なる行い」というカテゴリーに閉じ込められてしまえるのでしょう
宗教が人間の思考力を奪うとや、そこから生じる愚かさや残虐さを十二分に描いた映画です

改めて、地球という大きなくくりでは、理解し得ない価値観をもつ多様性を全て理解することはできなくとも、推量しようとすることが必要なのではないかとも思いました
その推量する力を高めてくれる方法の一つがこういった映画なのだと思います

開明獣さん、レビューでお勧めしていただき、ありがとうございました
良き時間を過ごせました!
ちこちゃん

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