秀ポン

ノック 終末の訪問者の秀ポンのネタバレレビュー・内容・結末

ノック 終末の訪問者(2023年製作の映画)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

初シャマラン。

まず視点の置き方が面白いなと思った。
平穏な日常の裏で確かに迫る危機と人知れず戦う主人公達。協力を要請しても、頭の固い相手は危機を認識できておらず話にならない。よくある展開だ。
このとき「頭の固い相手」側にはどんな景色が見えているのか。
(世界を救うために奮闘するマトリックスのネオ達もはたから見たらただの異常者)

視点の置き方から演繹されるキャラクター性として、訪問者達もある種被害者であるというのも面白かった。
困惑する主人公達を縛り付ける彼らも事態に困惑し追い詰められている。
この構図おもしろ。

その後なんやかんやがあり、最終的に思った感想は
「ガチだったんかーい!!」
それ以上の感想は特に浮かんでこなかった。
何というか、😕←見終わったときにはこんな顔だった。

どういう話だったのかちょっと考えてみる。

彼らカップルにとって世界は自分達を疎外するものだった。彼らは自分達を犠牲にすることでそんな世界を救った。
これは普通に考えたらおかしな決断に思える。

しかし世界は彼らを疎外する外部であるだけではない。
外とはテレビでしか繋がっていない、つまり世界と切り離されたキャビンにいれば「世界か自分達か」っていう二項を分けて立てることができるけど、家に帰ったらそうはいかない。
世界は彼らが生きるまさにその場所でもある。そこでは世界と自分達の二項対立は成立しない。
エリックがヴィジョンで見たのはまさにそういうことで、彼は自分が救った世界の中で夫と娘が暮らす様子を見た。

と、ここまで考えると胸糞悪い話だなと思えてくる。
エリックの決断は
「世界を嫌い、世界に嫌われている人も世界の中で生きているのだから、世界の為に犠牲になるべき」
という決断だ。
自分ははなから「仮にガチだったとしても世界を見捨てれば良いよ」「滅んだとしてもまだ世界は続くじゃん」("滅んだ世界"という形で)と思っていたので、この辺には全く共感できない。


ツリーハウスでの娘の「エリックパパはみんなを救った?」というセリフ。アンドリューはそれに応えることができない。
しかし屋根を打つ雨はまるで拍手のように聞こえる。(この演出自体は好き)
救われた世界の中で、アンドリューには自分達がもっと早く信じ、決断していれば死なずに済んだ人達の人生がのしかかってくる。
そしてカーステレオから場違いに明るい曲がかかり、一旦はそれを消すけど、やっぱり付け直す。
これからを生きていこうというような明るい曲が上滑りしたまま、明るくなった空の下を車が走っていく。
理不尽で悪趣味な話は嫌いなので、この映画も好きではない。
しかしこのモヤモヤする終わり方はそれなりに強い印象を残した。

──その他、細かな感想。

・冒頭は不穏でかなり良かった。遠くから大男がこっちに向かって歩いてくるの怖すぎる。ここでの足元を後ろから付いていくカットが好き。

・握手のカットで手にバットマンやスペクターの刺青が入っていたので、その両者に通じる「日常の裏で誰かが暗躍している」という話がそもそも好きな人間なんだろうなと思い、だから全部彼の妄言なんだろうと思っていたので、「ガチなんかーい!!!」の気の抜けた感覚がより強くなった。

・クマで冗談を言ってたら娘がクマを怖がらなくなっちゃうかもとか、湖に飛び込む前にはスマホや財布をポケットから出しておくとか、エリックの「先のことを考える」っていう性格の描き方が良い。

・「顔を見た方がよく眠れるだろう」と向かい合わされたときに、フェイスアップのアンドリューに対してバストアップのエリックが映される。画面に対するサイズの違いでアンドリューの心細さを強調してて良い。

・ロンのこと久しぶりに見た。

・アナウンサーの言葉を一字一句違わずに当ててみせるシーン。正常が異常に、異常が正常に入れ替わる瞬間がすげー良い。

・カーステレオのシーンもめっちゃ良かった。
エンジンを入れたらカーステレオから場に似つかわしくない曲が流れて、思わず消して、娘が付け直して、しばらくしてやっぱり違うなってなって消して、しばらくして父親が付け直す。笑うだろこんなもん。ここがこの映画の価値。
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