トムヤムクン

Between Two Dawns(英題)のトムヤムクンのレビュー・感想・評価

Between Two Dawns(英題)(2021年製作の映画)
4.0
ジェイランやハルファディといった西アジアの巨匠達の、少しのボタンのかけ違いでどうしようもない泥濘に落ち込んでしまう人々の心理ドラマが好きであれば間違いなく楽しめる作品ですね。父や兄たち家族が築き上げてきたものを信じて実直に働き恋人との関係も良好、語学にも堪能でゆくゆくは家業を継ぎつつさらに広い世界を目指していったであろう有望な青年カディル。順風満帆な彼の生活に家族経営の繊維工場で起こった作業員の事故から暗雲が立ち込めて、法と刑罰に回収しきれない良心と道徳をめぐる終わりのない葛藤に彼を引き摺り込んでいく。良心深く知的だがどこか無力で優柔不断なカディルと、家族や工場といった守るべきもののために時として冷酷で醜悪な行為も躊躇わない父兄のコントラストに見る男性性の問題。夫の快復を信じて賠償金の受け取りを拒み続ける遺族(というとネタバレですが)の妻サーピルの、異様と思えなくもない頑なさなどなかなか見所のある映画でした。
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