ぶみ

帰れない山のぶみのレビュー・感想・評価

帰れない山(2022年製作の映画)
4.0
心に降り積もった雪は溶け、人生となる。

パオロ・コニェッティが上梓した同名小説を、フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン、シャルロッテ・ファンデルメールシュ監督、脚本、ルカ・マリネッリ、アレッサンドロ・ボルギ主演により映像化したイタリア、ベルギー、フランス製作のドラマ。
都会育ちと牛飼いという対照的な二人の少年が、いったん離れ離れになるも、青年となり山麓の村で再会する姿を描く。
原作は未読。
主人公となる都会育ちのピエトロをマリネッリ、牛飼いのブルーノをボルギが演じているほか、ピエトロの父親役としてフィリッポ・ティーミ、母親役としてエレナ・リエッティが登場。
物語の序盤は、休暇で山を訪れたピエトロが、そこで牛飼いをする同い年のブルーノと出会い、性格も出身も対照的な少年二人が意気投合し親交を深めていく姿が描かれるが、ここまででもジュブナイル作品として十分高いクオリティを誇っている。
中盤以降、村を離れたピエトロが青年となり、村で暮らすブルーノと再会、二人で山小屋を建てることとなるのだが、大人になり、それぞれの価値観を持つ二人が、お互いを尊重し合い、時にはぶつかり合いながらも友情という言葉だけでは語り尽くせない、人と人との触れ合いを、静かにかつ力強く描いていくのが本作品の真骨頂。
約二時間半という長尺であり、極力説明的な台詞も廃されているのだが、無駄なシーンは一切なく、時間を感じさせないもの。
また、原題である『八つの山』の意味も劇中で明かされるが、『帰れない山』とした原作の邦題も秀逸。
北イタリアにあるモンテ・ローザ山麓のアオスタ渓谷や、ヒマラヤ山脈で撮影されたとされる雄大な景色を背景に繰り広げられる、主人公二人の繊細かつ濃密な物語がじんわりと沁み渡り、その結末に、本当の幸せとは何かを問われる良作。

言葉が貧しいと、思考も貧しくなる。
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