こなつ

帰れない山のこなつのレビュー・感想・評価

帰れない山(2022年製作の映画)
4.0
第75回カンヌ国際映画祭で審査委員賞を受賞した感動作。数々の文学賞に輝いた国際的ベストセラー小説の映画化。

心に沁みる作品だった。豊かで雄大な自然を圧倒的な映像美で描いているだけでなく、自分の青春期を懐かしく思い出し、人生には帰れない山があるのだという事を否応なしに感じさせる物語だった。

都会育ちで繊細な12歳の少年ピエトロと山で生まれ育った同い年の牛飼いの少年ブルーノ。対照的な2人の友情と大人に成長して再会したそれぞれの人生が、観る者に懐かしさと人生の厳しさを強く印象づけ、誰にでも「帰れない山」があることを思い知らせる。

映像に流れる大自然の美しさに息を呑む。その大自然の中を駆け巡り、濃密な時間を過ごした子供時代の2人が輝いていた。それぞれの事情で疎遠になったが、大人になっても大切な友を思う気持ちは変わらなかった。しかし自然が移り行くように、過ぎた日々、自分が失った時間は戻らず、自分の生きる道を見つけて彼らもひたすら前に進むしかない。

自分も親への反発で悲しませたことがあったかもしれない。ピエトロの父の孤独とブルーノに託した遺志が胸に迫った。ピエトロのように大きくなって知った親の気持ちも数々ある。自分の幼少期、青春期を重ねて懐かしさと複雑な思いが溢れた。

「帰れない山」何てピッタリな邦題なのだろう。本当の居場所を求めて彷徨う人々に送る物語だった。
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