こなつ

千夜、一夜のこなつのレビュー・感想・評価

千夜、一夜(2022年製作の映画)
3.8
久保田直監督、青木研次脚本。
ふたりの1作目の作品「家路」は鑑賞していないのだが、久保田直監督のNHKのドキュメンタリー作品は観たことがある。

世界の8人のドキュメンタリストにも選出されたドキュメンタリー出身の久保田直監督の作品というだけで、興味を持った。

日本全国の警察に届けられる行方不明者の数が年間8万人というから驚く。

監督がその「失踪者リスト」から着想を得て、青木研次がオリジナル脚本を書き上げた作品である。

北の離島の美しい港町。登美子の夫が突然姿を消してから30年。なぜ居なくなったのか、生きているかすらわからず最愛の夫をひたすら待ち続けている。

漁師の春男が登美子に想いを寄せ続けても、それには応えない。

そんな登美子の前に、2年前に失踪した夫を探す奈美が現れる。奈美は、新しい恋人と新たな一歩を踏み出そうとしていた。

「悲しくないですか?待っているのって」そう登美子に問う奈美。自分の中で決着をつけるため、居なくなった理由を知りたいという奈美。

事故などの不意の事態で連絡出来ないまま居なくなってしまうなら兎も角、自分の意思で理由も付けず蒸発してしまうのは、どんな理由であれ許せないと思う反面、誰にでも全てを捨てて、違う人生を歩きたいと突然思うことがあるのかもしれないとふと思わせる作品の流れ。

自分だったら、登美子のように帰るかどうかわからない人を30年も待てるだろうか?

ラジカセから流れる夫の声に幸せだった日々を忘れられず、ただ時間に流され、意地だけで待っているのではないだろうか?

奈美の夫を街で見かけて、奈美には新しい人がいるのに連れて来るところなどは、30年の月日での荒んだ心を見たような、登美子が自分のことしか考えられない人間になってしまっているような気がして、悲しかった。

重く、暗い題材だが、鑑賞して悲惨な気持ちにならなかったのは、田中裕子、尾野真千子、ダンカン、安藤政信を中心とした俳優達の名演技に尽きる。

キラキラ光っている美しい港町の映像、
何処かのこんな港町で実際に起きているのではないかと思わせるこの作品は、人間の複雑な底知れぬ本質を炙り出しているようで心が揺さぶられた。
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