Pinch

デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリームのPinchのレビュー・感想・評価

4.0
好き勝手に言わせていただくと、私にとってデビッド・ボウイとは『世界を売った男』('70年11月)から『ロウ』(’77年1月)までの約6年に及ぶ徹底した変貌ぶりそのものである。無理に無理を重ね、自己を限界まで追い込み、内面の貴重な宇宙を押し広げて表現し続けた。まるで自らの心身に人体実験を重ねるようなものだ。

当時の彼はロックを通じての「実存」そのものであった。この世のものとは思えない奇抜な姿で「私は私の痛みであなたを救う」とオーディエンス一人ひとりに大真面目に歌いかけた。やがて全ての虚飾を剥ぎ取り、人間の不気味な深遠と孤独感溢れる静謐さを晒した。文学と芸術の見事な感性は、当時の歌詞を見れば分かる。ウィリアム・バローズとの対談などを読んでも、素晴らしく自由で知的だ。

いや、この6年間だけが凄いわけではなく、群を抜き過ぎているのだ。そのまま続けていれば数年後にはこの世にいなかったような気がする。

グラムロック以来久々に人気が再燃した『レッツ・ダンス』('83年4月)あたりから彼に触れることはほとんどなくなり、2016年1月に死亡したことも知っても大した感慨は湧かなかった。この6年間は彼の生死とは関係がないという認識があったのだと思う。ボウイ本人の音声から成るこのフィルムを見て、晩年は幸せでよかったと思う。
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