マテ

カラオケ行こ!のマテのネタバレレビュー・内容・結末

カラオケ行こ!(2024年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

聡実くん、君は本当にかわいいね。成田狂児、お前は本当に狡い男だよ。

ふと思い立って原作を読み、あまりの良さに言葉を失い、半年ぶりに映画館で映画を観た。私、配信派だしドラマ派だし、映画館ぜんぜん好きじゃないのに、よりによって人混みの極みで、前後左右に他人がいる日曜日に映画館に行くなんて。それくらいの謎行動力を引き起こした「とんでもねえ作品」だった。これは本当にすごいことですよ(個人比)。
映画の方はといえば、これまたとんでもねえ破壊力をもって私を貫いて駆け抜けていった。なにこれ、「愛」がすぎるけど本当に大丈夫ですか? 狂児と聡実くんの解釈が深すぎる。なんということでしょう。
もちろん「いちごのシーン欲しかった〜」とか「『帰ろ』はなかったのね」とか、そういう部分の心残りはあるにはあるのだが、映画のふたりには別の出来事があって、それがしっくりすぎるほどしっくり嵌っているので、それほど残念に感じはしなかった。平たく言えば「改変も結構あるけど全然よき。むしろこのふたりにはこっちの方が合っているかも」と。世界線が違うので。

キャストが全員良すぎたのはもう言うまでもないことなので、最後にお気に入りのシーンについて。
本当に成田狂児は悪魔のような男ですね。いつもニコニコ笑っていて、そこそこ辛辣で生意気な聡実くんにも決して怒らず、ペラペラした言葉でテキトーなことをヘラヘラ嘯く「狡い大人」の成田狂児。そんな男が聡実くんに「元気」もらいたくて学校まで押しかけて、中学生の青春してる彼を見てしまって、いつもよりちょっと強めにヘラヘラしながらしつこく絡んで(←ここも重要)怒らせて、挙句に「元気くれるんやなかったのー?」だけを、いっそ怒気にも似たような感情を込めて放ってしまったわけですよ。あの言葉だけ、それまでの対聡実くんの狂児には似つかないほど語気強かったと思う。めちゃくちゃ腹から声出すじゃん。
でも決して、その怒気は聡実くんに対するものではないんです。これまで散々好き勝手に聡実くんを振り回しても「保護者」で「大人」であることを守り続けた狡い男から、ついに漏れてしまった生の感情だと思うんです。その感情にどんな名前を与えればいいのかはよく分からないけれど、でも乱暴に放ってしまったあの言葉は、嘘偽りなく成田狂児、彼自身がはじめて聡実くんに放った、等身大で生々くて、全然綺麗なんかじゃない剥き出しの心なんじゃないかな。しんどい。
あと和田ね。バカみたいに面倒くさいのがすごくよかった。1年後には彼も声変わりを迎えて、あのときの聡実くんに対する自分の態度とか言葉とかを思い出して後悔したり、悩んだりするんだろうなと思うとたまらないよね。
マテ

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