耶馬英彦

デウス 侵略の耶馬英彦のレビュー・感想・評価

デウス 侵略(2022年製作の映画)
3.5
 地球の人口が210億人に達した近未来が舞台。地球は壊れていき、人類の未来に暗雲がたれこめていくさなか、火星軌道上に突如として現われた黒い巨大な球体。その正体は何なのか。未知の球体に、人々は根拠のない期待を寄せる。

 流石にイギリスのSF映画である。テーマが真面目だ。「私はアルファであり、オメガである」という台詞が出てきたのは少し意外だった。イギリスはイングランド国教会が有名なキリスト教国ではあるが、国民性としては無宗教のイメージがあるからだ。とはいえ無宗教の当方でも新約聖書の「ヨハネ黙示録」の言葉であるとわかるくらいだから、常識の範囲内か。

 世界の人口は先進国が徐々に下り坂になっているものの、アフリカやインド、南米では人口爆発が続いている。タリバンの支配しているアフガニスタンでも人口が増えている。どう考えても不幸な子どもたちばかりなのに、親は不幸を生み出し続ける。
 人口は労働力であり市場である。生産者であり消費者なのだ。経済成長には人口増加が欠かせない。有名なマルサスの人口論では、人口は等比級数的に増えるのに対し、食料は等差級数的にしか増加しないから、必ず食糧危機が訪れると説明されている。
 一方では食物の廃棄も問題になっていて、日本では毎年600万トンの食料が棄てられている。ひとり当たりおにぎり1個分を毎日棄てていることになるそうだ。さらに一方では、世界の人口の1割が飢餓に苦しんでいる。食料には消費期限があるから、分配も簡単にはいかない。

 本作品はそういった問題をバックグラウンドとして、世界の指導層が独善的な解決案を模索する恐ろしさが描かれる。報道やプロパガンダも併せて皮肉っているように感じた。邦題の「侵略」は余計だが、悪い作品ではないと思う。
耶馬英彦

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