Inagaquilala

追想のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

追想(1975年製作の映画)
4.0
「冒険者たち」と同じフランソワ・ド・ルーベの音楽に乗り、幸せそうな3人家族のサイクリングの映像から作品は始まる。母と娘に後ろから追いついていく父。3人の自転車が揃うとストップモーションがかかり、タイトルバックが流れる。ラストでも同じショットが映されるが、この幸せそうな情景に挟まれて、ドイツ兵によって妻と娘を殺された男の壮絶な復讐劇が展開する。この緩急をつけた構成は、音楽もそうだが、「冒険者たち」でも見せたロベール・アンリコ監督の独特な場面展開だ。

1944年、ナチスの旗色が怪しくなり、撤退を始めた占領下のフランス小都市が舞台。外科医のジュリアンは、妻と娘を自分の育った田舎に疎開させるが、運悪く、その地で撤退中のドイツ軍に殺されてしまう。家族に会いに行ったジュリアンは、その事実を知り、ドイツ兵に復讐しようとたったひとりで立ち向かって行く。ドイツ兵がいるのは、自分が所有していた城。勝手知ったるこの城を舞台に、男の闘いが始まる。

その散弾銃を手にして敢然と闘う合間に、幸せだった男の過去の映像が映される。おそらくは闘う中での回想としてそれらのシーンは登場するのだが、幸せの場面と悲しみの闘いの対比は、男の孤独な闘いをさらに強化していく。マジックミラー越しに、保養地ビアリッツで撮影した自分たちのホームムービーを、ドイツ兵たちが面白がって見ているシーンがあるのだが、この場面は、緩急の中でも最も心を突くシーンだ。

公開当時に「冒険者たち」のロベール・アンリコ監督の作品であるということで、劇場で観た記憶はあるのだが、ディテールについては忘れていた箇所も多かった。妻役のロミー・シュナイダーの妖しい魅力はこの作品でも健在。好きな女優さんのひとりだ。邦題の「追想」は、主人公が復讐のなかで過去の幸せの日々を思い起こすことから取られているのだろうが、悪くないタイトルだと思う。デジタルリマスター版でのリバイバル公開だが、映像的にも物語的にも古さというものをまったく感じさせない作風は驚くばかり、ロベール・アンリコならではのものなのだろう。
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