耶馬英彦

a20153の青春の耶馬英彦のレビュー・感想・評価

a20153の青春(2022年製作の映画)
3.5
 終映後の舞台挨拶で、母親役を演じた丸純子さんがネグレクトという言葉を使っていた。ネグレクトは放置したり無視したりという意味だから、本作品の暴力的な虐待とは違う。変に外来語を使わないで、日本語の虐待でいいのではないかと思う。
 ということで、拓也は生まれてからずっと虐待され、学校でもいじめられ、おまけに成績もよくない。中学生になって身体も大きくなってから、一度だけの反撃で母親も愛人も殺してしまい、刑務所に入れられる。出所しても当然ながら就職などできず、日雇いの派遣で食いつなぐが、コロナ禍で仕事もあまり入らなくなる。
 なんとも悲惨な話だが、救いがまったくない訳ではない。それは拓也の台詞「簡単には死ねないよ」と、下館結衣の「絶対結婚する」という台詞のふたつだ。

 ラストシーンをどのように解釈したかをSNSに書いてほしいと北沢幸雄監督は言っていた。当方の解釈は大抵の人と同じだと思う。海で自殺しようと思っていた拓也だが、結局は自殺できずに東京に戻ることになる。殺人の前科者がひとりで生きるのはかなりしんどいが、結衣が一緒なら生きていけるかもしれない。他人とのかかわり合いが薄い東京なら、それが可能だ。
 罪は償った。拓也は救われていい筈だ。結衣とともに年老いるまで生きていくことができれば、悲惨な青春も、いつか笑い話になるかもしれない。それが当方の解釈である。希望的に過ぎるかもしれないが、何も希望がなければ生きていけない。実現するかどうかは別として、明日を描くことが、拓也や結衣には必要なのだ。
耶馬英彦

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