ムビ太郎

バーバリアンのムビ太郎のレビュー・感想・評価

バーバリアン(2022年製作の映画)
4.2
物事は人によって事実が変わる。

これ途中のAJのセリフだけど、今回の"barbarian"はこのセリフに集約されるのかなって個人的な感想。

世界史でバルバロイの話を高校一年生の時にされたのを思い出した。高度な文明を築くギリシア人達から、「訳のわからない言葉を話す奴ら」なんていう何とも理不尽に「野蛮」と表現されたことが語源のbarbarian。つまり、権威⇔マイノリティみたいな関係性が読み取れる。この構造、この作品の中で綺麗に表現されているのが興味深い。

単純に外形的にストーリーの中で言えば、テスとキースAJは地下親子からしたら侵入者、野蛮=barbarianなのかもしれないが、タイトルの裏にあるのは「それぞれの主観から見た正義は、客観の目に晒されると野蛮化する」ということだと思う。
テスは「命」に対する正義が半端じゃない。自己防衛だけじゃなく、他人の命すら自分の命を顧みない性格。ここに対極するいわゆる'ギリシア人'は、デトロイト警察。あの場面完全にテスは見た目も野蛮人だったけど、警察のあの対応は風刺なのかなあ…完全に話を聞かず、バルバロイ扱いだったよね。
AJについては、対極にいたのは世間だね。
AJの主観でしか見えない事実は、同意の上の行為だったというもの。しかし、描かれている雰囲気的に売れっ子の作家さんなんだろうね。お金持ちだし、足元を掬われてしまった。もうメディアで報道されてしまっては、AJは、世間という存在からしたらbarbarianでしかない。

そして最後にあの化け物(笑)
暮らしてるから人なのかもわからないけど、あの女性もきっと正義を果たしているんだよな。自分なりの。というかもはやその正義は社会性皆無で育ってしまったから、生物の本能に近い。子を守る、育てること。そのためには邪魔者は排除する、クマとかそういう事件起きるよね。

最後裏切ったAJを化け物が殺したのはきっとこの本能的なもの。授乳を受け入れたテスを子として認識して本能のままに正義を貫く。でもテスは、殺される様子はないけど最後化け物を殺した。彼女はキースを殺されているのを目の前で見ているから。(AJに対してはどういう気持ちか不明)「命」に対する義を最後まで貫いた。
このラストシーンをスッキリしたっていう気持ちになったのは、自分が客観的な世界と主観の狭間で生きる、人間という生物だからなのか、はたまた違う人からみたら"愛してくれている化け物を殺すなんてひどい"って思うのかな。きっと人それぞれでいいんだろうね。
警察、世間、最終的には社会性生物の人間という大きな主語を「ギリシア文明」として、小さな個人、非社会生物をバルバロイと置いた、この構造はすごく綺麗だと思う。

主人公のキャンベルさん、ザウォッチャーにも出ているみたいで、公開が楽しみ
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