真一

ハントの真一のレビュー・感想・評価

ハント(2022年製作の映画)
3.9
舞台は、独裁政権時代の韓国。思想警察の内情をドラマチックに描いた、複雑で精巧なスパイアクション映画です。「恐怖の拷問機関」として悪名高い国家安全企画部の幹部2人に光を当て、良心の呵責、憎しみと葛藤を浮かび上がらせます。現在の尹大統領が「非常戒厳」を下すという仰天ニュースを見て、思わず手にした一本です。

 ー訪米中の韓国大統領を狙ったテロ未遂事件が発生した。極秘の訪米日程が、こともあろうに思想警察内部から北朝鮮に漏れていたのだった。スパイの疑いを向けられたのは国際次長のパクと、国内次長のキム。組織のトップは両者に対し、相手を調べあげろと指示する。渦巻く疑心暗鬼。やがて想像を超える真相が、闇の中から浮かび上がるーざっとこんな展開です。

 ※以下、ネタバレ含みます。

 最大のサプライズは、スパイは2人いたという設定でしょう。思想警察の中に、北朝鮮系だけでなく、反大統領派のモグラも潜り込んでいるという展開には、驚かされました。そして両者がモグラになった経緯をエモーショナルに描いているので、どちらにもシンプルに感情移入できました。

 本作品の問い掛けは「いかに狂気の独裁者に抵抗すべきか」という点にあるようです。夥しい犠牲者を思い出し「刺し違えるしかない」と覚悟を決めるキム。「暗殺しても民主主義の扉は開けない」と諌めるパク。北朝鮮の特殊部隊が迫る中で2人が緊迫のやりとりを繰り広げる場面を見て、韓国映画の底力を感じました。面白い!

 それにしても韓国保守派の反共思想は凄まじい。38度線で国土が分断されている現実が、そうさせているのでしょう。尹大統領も非常戒厳令を出す際に「共産勢力から韓国を守る」と演説しました。本作品の背景にリアルな朝鮮半島情勢がある事実を、改めて痛感させられました。ストーリーが複雑すぎるのが難点ですが、不明なシーンは何度か見返せば分かると思います。良作です。
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