しの

MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらないのしののレビュー・感想・評価

3.6
この話に共感してしまう自分が哀しいが、本作が提示する「終わらないループ」に思える日常への束の間の、しかし切実な抵抗がなかなかいいバランスで描かれていて良かった。主人公ではなく、50歳手前の部長というキャラクターを物語のカギに設定しているのがまたいいのだ。

よくある「ループするんだから遊んだれ!」ではなく、むしろ「ループを抜けたときのためにちゃんと仕事しなきゃ」になるのが哀しいくらい日本人的だし、それ故に哀しいくらいフレッシュだ。だから「ループを抜けるかどうか」ではなく、「どう生きるか」に重点が置かれるというのも面白い。

前半はジャンルものの楽しさで惹きつける。王道の「どう抜けるか」展開を、職場でタイムループが起こったら? のシミュレーションのなかで、本作ならではの方法で見せてくれるのだから面白い。例のプレゼンは白眉だろう。正直、ああいうネタをもっと見たかったが、後半ではあえて全く違う方向性にツイストしていく。

この後半の展開により、話の焦点がブレていく感覚は否めない。最大の違和感は、それまであくまで「職場の上司部下」という関係性だったのに、急に「個人的な夢を叶える仲間」に変わってしまうことで、このため後半で話の寓話性がけっこう変わる。こちら側で鑑賞中にギアを切り替える必要が出てきてしまうというか。

とはいえ、単にジャンルもののお決まり展開をなぞらず、本作独自のツイストを用意したこと自体は評価したい。主人公の「他人のことを考える」と部長の「自分のことを考える」が繋がっていくオチは好きなところだ。結局、キャラクターの境遇が劇的に変わるわけではないが、生き方は決定的に変わるだろう。50手前の部長が最後に言う台詞は特に好きで、あれこそ可能性に満ちた「地味な人生」の肯定だと思う。

ただ、これを前半のレイヤーのまま観ると「でも職場の人間とこんなことしないよな……」とは思ってしまう。職場あるあるを塗したリアルさが前半にあったからこそ、後半にかけあまり接続してない感じがするのは惜しい。主人公の恋人との話にもう少し分かりやすい決着があっても良かったと思うし。

とはいえ総合的には、ジャンルものの楽しさを踏まえつつ、ループ的な現実に対して「じゃあ仕事辞めよう」みたいな極論ではなく、「またループするかもしれないけど、目の前の大事なことを見失わなければ大丈夫だ」という本質的な主張をしようとする姿勢含め、日本だからこそ作れたタイムループ作品として一定の評価をしたい。

(※本作のテーマについてさらに深掘って語ったネタバレ感想ラジオ)
社畜に響く?日本人らしいタイムループ映画『MONDAYS』を語る【ネタバレ感想】
https://youtu.be/HBcfMWjXzPY
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