Jun潤

美と殺戮のすべてのJun潤のレビュー・感想・評価

美と殺戮のすべて(2022年製作の映画)
4.0
2024.03.30

予告を見て気になった作品。
必殺・ライブ遠征中に映画館in札幌。
第79回ヴェネツィア国際映画祭にて金獅子賞を受賞。

写真家、ナン・ゴールディン。
彼女の活動の原点と、「オピオイド危機」という大企業と富豪一族が引き起こした薬害事件との闘いの記録。

美術館に時折行くことはあっても、作品を寄贈した人のことは考えたこともありませんでした。
そして、写真という一瞬を切り取ったものにも、見た人には伝えきれない、撮った人だけが撮った瞬間に感じたもの。
一見何の関係もないように見えるものでも、作品として世に残る、人々の目に触れているからこそ、その裏側にある真実から目を背けてはいけない、そんなナンのアーティストとしてのプライドと、その奥底にある家族との思い出。
これは世界的大事件に立ち向かった人々の戦いの記録であると同時に、人の記憶の中にしか残せないもの、残らないものを、必死になってより多くの人の記憶に残し、事実として未来に繋いでいこうとした人々の物語。

作品はナンの幼少期から、壮絶な人生と写真家としての成功の物語と同時進行で、「オピオイド危機」との戦いの記録を描いていくもの。
上述の通りここにも一見何の関係も無いように思えてしまいますが、時系列が進むにつれて二つの物事の関係性が如実に浮かび上がってくるというのもまたカタルシスがあって良かったです。

依存、それは薬や性だけでなく他人との関係もそうで、個人的な解釈だと、日本でも流行っている「推し活」にも通じる部分が一部あるのではと感じました。
「これが有るから生きられる」と「これが無きゃ生きられない」。
(たしか)数学的な考えではほぼ同じ言葉でも、前向きに考えるか後ろ向きに考えるかによって、「これ」に対する考えは全然変わってくるのではないでしょうか。
無くても生きられる状態にならなきゃいけないなんてそんなことはないけど、薬と同じで用法・容量を守ることは大事ってことですかね。
Jun潤

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