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美と殺戮のすべてのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

美と殺戮のすべて(2022年製作の映画)
5.0
何から何まで<命の力>に圧倒された。生半可な言葉では表せない。あらすじをなぞることしかできない。これがアートの力か。

写真家ナン・ゴールディンは、50万人が薬物中毒死した鎮痛剤の製薬会社の富豪一族が文化・教育への寄付に反対し、アンチキャンペーンを行っている。自身の作品が展示されている世界の美術館、メトロポリタン、グッゲンハイム、ロンドン美術館にも富豪の名前の入った展示室がある。著名なアーティスト自身が人々を巻き込みながら美術館の中でゲリラ的にアクトアップする。その活動の全貌と成果をドキュメンタリーで描いている。

その一方、ナンの半生をまた、ナンの作った映像と写真から、並行して、紹介していく。

なぜ、姉は、友人は、<殺戮>されなければならなかったのか。<殺戮>がナンの<美的活動>を生み出した。

死というより、社会に家庭に殺された人々の命の記憶を記録していたナン。アーティストたち、社会に存在させられなかった人々、ナンは自身も含め、あらゆる人を写していく。


本作のローラ・ポイトラス監督は『スノーデン』でアカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞している。背景を知ると、ポイトラスもまた、闘うアーティストだった。ドキュメンタリーのセンスが卓越している。ナンの力強さをがっちり受け止めたカメラワークが素晴らしい。本作はヴェネチアで金獅子賞を受賞している。
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