KnightsofOdessa

熊は、いない/ノー・ベアーズのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

4.0
[そんなものは怖がらせるためのハッタリだ] 80点

2022年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。ジャファル・パナヒ監督最新作。今回のパナヒは国境の村に出没する。そして、テヘランでの映画撮影を遠隔操作する一方で、村でのあれこれに巻き込まれる形で、都会と田舎の物語を平行して語っていく。都会の物語では、ザラとバクティヤルというカップルが偽造パスポートで国外へ出るという話をしていて、二人についてのドキュメンタリーを撮るという体で展開される。一方、村の物語は、パナヒが撮影したかもしれないある男女が実は一緒にいちゃいけない二人だったので、一緒にいた証拠として写真を出せと絡まれ、その話に村人たちが参加して話が大きくなっていく。今回は今まで以上に直接的な表現で怒りや主張を視覚化する。例えば、写真を持っていないことを誓うシーンでは、"私のやり方で真実を語る"としてコーランを下げさせ、カメラに向かって語り始める。パナヒの写真をきっかけに喧嘩を始めた若い衆に対して、村長は"学のある者は暴力ではなく言葉で解決する"と怒り、宣誓を前に村の老人は"嘘でも誓っちゃえば解決だ"と言い放ち、偽造パスポートで国外脱出することに否定的なザラは"嘘まで付いて渡欧する意味があるのか?"と問いかける。パナヒの映画はドキュフィクションであり、悪く言ってしまえば煙に巻くような物語となるわけだが、それでも撮ることで抵抗を続けるという固い意思表示のようにも感じられた。原題"No Bears"とは、夜道を歩くパナヒに対して"熊が出るぞ"と言ったのを秒で翻した際のセリフから取られている。"そんなものは怖がらせるためのハッタリだ、熊なんぞ出ない"。そういうことだろう。
KnightsofOdessa

KnightsofOdessa