ちこちゃん

熊は、いない/ノー・ベアーズのちこちゃんのレビュー・感想・評価

4.2
「希望も自由も仕事もない」
映画の中のセリフですが、イランの現状を言い表しているのだと思います。

トルコに居て、他の欧州の国に脱出しようとするカップル、そしてイランのトルコとの国境の村に居るパナヒ監督、その二つの、物語が入れ子のように進んで行きます。
パナヒ監督がイランにいて、リモートでカップルの映画を撮る話になつており、どこまでがドキュメンタリーでどこからかフィクションなのか観ていてわからなくなります。

ただ、そこに描かれるのは、「熊」に囚われる人々。それは村の因習でもあり、国家でもあり、制度でもあり、宗教でもあるのでしょう。それらの見えない鎖に絡め取られた人々は、絡め取られていることすら認識しない人々も多くいる一方、監督のように、それに屈せず、その中で抗う人もいるのでしょう。
また「熊」を使うことで、人々を抑圧する人も居ます

イランが宗教国家となり、宗教上の最高指導者が三権を掌握する状態になってから44年です。その間、アメリカからの経済制裁が続くことで国の経済は疲弊し、宗教指導者による事実上の独裁が続き、宗教の名を使い人々を抑圧し、女性への弾圧もされています。ヒジャブの被り方の問題によって逮捕された女性が急死したことはイランのみならず世界でも大きな問題となり、日本でもデモに発展しました

そんな過酷な状況下において、パナヒ監督のように自国の問題を映画で提示し続ける人、女性の抑圧と闘い、人権と自由を求める運動をして逮捕されたものの、この度ノーベル賞を受賞したモハンマデイさんのように多大な個人的犠牲を払い、表現の自由を含むあらゆる自由を勝ち取ろうとしていることには、尊敬しかありません。

全ての人の人権が守られ、自由を手にすることができることを祈るしかできないのですが、せめてこの映画を観ることで監督を支援できたらと思います

最後のシートベルトの警告音、サイドブレーキの音、監督の表情、それが監督の現実への怒りの表れのように思いました。

この映画を紹介くださった開明獣さんに感謝です!
ちこちゃん

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