一人旅

バルド、偽りの記録と一握りの真実の一人旅のレビュー・感想・評価

4.0
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作。

メキシコ出身の鬼才アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの監督最新作で、著名なジャーナリストの男の心の彷徨を2時間半強の長尺で映し出しています。

LAを拠点に活動している著名なジャーナリスト兼ドキュメンタリー映画作家の主人公シルベリオが権威ある賞の受賞をきっかけに母国であるメキシコに帰郷して体験する一連の出来事を描いたロードムービー仕立ての人間ドラマで、監督を務めたイニャリトゥ自身の半生と心境が色濃く反映された自伝的な作品となっています。

フェリーニの『8 1/2』(1963)のように、映画作家としての苦悩と葛藤、そして母国メキシコと自分を育てたアメリカという二つの国を巡るアイデンティティの揺らぎを、イマジネーション溢れる摩訶不思議な映像感覚を随所に交えて見せていく内省的なヒューマンドラマであり、主人公(=イニャリトゥ自身)の悔悟や罪悪感、過去と現在が長回しのショットで語られていきます。主人公の人生の光と影、その末に辿り着く家族の愛情という一つの真実。イニャリトゥ監督のキャリアと人生の集大成とも言える壮大で幻想的な旅する映画です。

そして、フェルナンド・E・ソラナスの傑作『ラテン・アメリカ/光と影の詩』(1992)のメキシコ版オマージュとも言える、多様性に満ちた中米の大国メキシコの歴史、経済、文化、宗教、生活、自然…とありとあらゆる構成要素が現実と幻想の混濁の中に映し出され、主人公の複雑な心境に共鳴する“メキシコ(ラテン・アメリカ)再発見映画”でもあります。
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