A4の映画は好きな作品が多いのでこの映画も自然と興味を惹かれていました。それ以外には何も予備知識を入れずに、あらすじすら見ずに見に行きましたが、ぼちぼち良かったです。A24の他の傑作程よくはないですが、いい作品だとは思います。
まずは演技が良かったです。特に主演を務めた2人、エミリー・ワトソンとポール・メスカルが特にそうです。この2人の顔をアップで捉えている様子や何かをしている様子を定点カメラで捉えるようなシーンが度々この映画にありましたが、それだけで彼らが何を考えどう感じているのかを読み取ることが出来たので、退屈することは一切ありませんでした。
同じく彼らを捉えているシーンの撮影が素晴らしかったです。周囲の風景であったり明るさをかなり有効に活用していて、ただ作業をしている様子であったり風景であったりを捉えているだけのシーンもけっこうありますが、それも上と同様にキャラクターの精神を表現するようにかなり有効活用されていました。なんで、この映画は前半部分でストーリーがあまり進まないのですが、そんなに苦痛には感じませんでした。
とはいえ、その部分がこの映画の落ち目に感じます。この映画のあらすじに書かれているある嘘のせいで人々を引き裂くという要素は映画の6割くらいが終わってから起こります。そこまでは映画のキャラクター紹介をずっとやっているのですが、そこでほとんどストーリーと呼べるものがないので、演技や視覚的な興味深さはあるのですが、それしかないので苦痛とまではいいませんが少し退屈しました。
もう少しエミリー・ワトソンとポール・メスカルの友情等が見えるようなエピソードが欲しかったです。
しかし、後半部分は映し方だけでなく脚本も素晴らしかったです。キャラクターの善悪がすごく曖昧で、ストーリーの中でいろいろなことを経験していく中で色んな感情の変化を見ることが出来たため、引き裂かれて行く中での言動にもかなり信ぴょう性がありました。
個人的にいい人間ドラマとはキャラクターの感情の起伏がちゃんとした根拠の元に大きく変化していくものだと思っています。本作の後半部分はずっと主人公に話の焦点を絞って、その精神の揺れ動きをずっと映し続けていたので、ずっとその人物の様子に興味を向け続けることが出来ました。
後半部分に比べると前半部分が落ち目に感じてしまいますが、それでも本作はA24らしいアートを全面に打ち出した独創性は高く評価できます。A24という名前を聞いて興味を持った人はきっと気に入る作品だと思います。