回想シーンでご飯3杯いける

パリタクシーの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

パリタクシー(2022年製作の映画)
4.0
「素晴らしき航路」という意味を持つ原題を全くかすりもしない邦題。フランス版のオリジナル・ポスターにはタクシーのマークがしっかり描かれているのに、そのデザインを使わず、わざわざタイトルに「タクシー」のフレーズを持ってくるとか、おせっかいでちょっと白けてしまう(完全に日本側スタッフの責任)。

で、本編を見ればわかる通り、この「航路」は、タクシーを走らせた航路だけではなく、乗客であるマダム・マドレーヌの人生を指す言葉であり、彼女と出会ったタクシー運転手シャルルの人生を指す言葉でもあるのだと思う。

物語はマドレーヌが後部席で語る回想によって描かれる。運転手と乗客は基本的に目を合わせない位置関係。場合によって、乗客が一時離席する場合等で、2人のやりとりが途切れる瞬間がある。そうした間合いを巧みに使った演出が素晴らしい。つまり、本作に於けるタクシーの存在はあくまで舞台装置なのであって、タイトルにしちゃ駄目だと思うんだけどなぁ。

豊かな経験を持ちながら身体的な自由を失いつつある老人と、今後の人生の見通しが立たない労働者の人生が交錯するという点で、同じフランス映画の「最強のふたり」に通じる部分もある。劇場公開時に評価が高かった事も頷ける良作だ。