JunichiOoya

間借り屋の恋のJunichiOoyaのレビュー・感想・評価

間借り屋の恋(2021年製作の映画)
5.0
日本映画学校から東京藝大大学院(坂本裕二ゼミ)という若者=増田嵩虎(戦国武将みたいやな)さんの長編デビュー作。

間借りでカレー屋を営む若い料理人が学生時代の先輩、間借り家主の妻、仕入先の若い娘さんという3人の女性と、益体もない関係をダラダラと続けながら…という、それだけ聞くと今泉さんの映画かなと思うような話なんですが。

そもそも舞台に使った実際のカレー屋は「草枕」という店だそうで、映画の中には「明暗」「行人」という店も出てきて、ストーリーは私には『こころ』っぽくもありました。家主の夫が病に倒れて主人公とzoomで話すシーンが一つの山場なんだけどその辺りから特に『こころ』かなあって。

そもそも『間借り屋』っていうのと「まがったもの」の持ち主である主人公っていう言葉遊びも傑作だし。(増田さんの師匠の1人はピンク七福神のお一人、坂本礼さんだし、この国映映画研究部の制作ですからね)

で、話の肝は「コロナ禍」なんですね。厄災の中で人がどう人とコミュニケーションをとっていくのか、どんな距離感で人と人は繋がるのか、はぐれるのか。
台詞が非常に練られていて、演劇的要素でもとても楽しめます。(ちょっと演劇に偏りすぎてたかもしれないけど)

そんなこんなが達者な、とても達者な脚本で120分強展開されます。

脇に顔を出す、川瀬陽太、西山真来、いまおかしんじ、下社敦郎さんたち、錚々たる顔ぶれがちゃんと個を出しておられる。

そして何より河屋秀俊さんの「死ぬほど美味い、いうほどでもないけどな」と言いながら死ぬほど美味そうな顔してる芝居に感動しました。

ここまで私が上げさせていただいたキーワードの数々のうち、一つでも「ああ、そういうやつね」と感じてくださる方がおられたら、その方には間違いなくおもしろい映画です。

是非是非是非、ご覧いただきたい。

増田さんがゼミで作った習作(ということになるのかしら?)『ピザとダンス』、10分ほどの短編ですが、YouTubeで見ることができます。こちらもおすすめです。
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