JunichiOoya

美と殺戮のすべてのJunichiOoyaのレビュー・感想・評価

美と殺戮のすべて(2022年製作の映画)
5.0
薬禍についての裁判闘争のドキュメンタリー、
に形を借りて、ナン・ゴールディンその人を魅せてくれるとてつもない傑作かと。

色々と政治も絡みつつ、認可を受け続ける鎮痛剤の成分(ケシから作ったやつね)の中毒性と健康被害(死に至るそれ)を論証していく法廷シーンは、まあ勝ち負けがはっきりしていて、そこまでドラマチックではないかもしれない。

とはいえパンデミック下でのリモート(PCディスプレイ越し)弁論シーンには心奪われました。ノートパソコンにまんま証言が映し出される、薬屋一家の無表情な顔、顔、顔には、法廷で面突き合わせる裁判とは別種の緊張を体験させられる。
正直めちゃくちゃ興奮した。

でもでもやっぱり感じ入ったのは、精神を「病んだ」とされ自死に追い込まれたナンの姉や、「子どもたちのしんどさなんか一切知りませんわ!」的な中産階級父母の厚顔ぶり。この家族ってなんなのよ! いや、この家族が、私たちそのものなのね、と。

50万人以上を死に至らしめたという「麻薬」=オピオイドの惨禍はもちろん大変なものなのだけど、それと対置させて個人の痛み、家族の辛さを堂々と正面切って描くところに痺れました。

こういう個人主義賛歌とも言える価値観がとても好きだし、同時に日本映画というかこの国の表現には太刀打ちできない部分だよなあ、と改めて思い知った次第。
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