ろく

福田村事件のろくのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
4.4
怖いのは「当然起きる」ことなんだ。

最初の展開はダルなの。それは僕らの人生でもそう。当たりまえの生活が当たりまえの続く。決してこれは「当時」だからではないんだよ。今だってそうじゃないか。当たりまえなように「外国人」を忌避する人がいる。でもそれ以外、その人は優しかったりする。つまり「当たり前」なんだ。

でちょっとした決壊で「悲劇」が増幅されてしまう。ダムの決壊だ。小さな穴だったのがいつのまにか家が流されるまで。だからね、この映画は怖いんだよ。これは昔の話ではないんだ。「今」ここで私たちに起きてしまうことなんじゃないの。森達也はシニカルに笑う。

後半、悲劇はおきないでくれ、そう僕は願いながら見ていた。でも「当たり前」のように悲劇が起きる。無惨に殺戮は続く。これを彼岸として見るか此岸として見るか。僕は此岸として見た。だから不安が止まらなくなってしまう。今の僕らの生活だってそうじゃないか。いつこうなるか、それを安心して観ていられない。この映画は毒薬だ。その毒とは「安心ができなくなる」という毒だ。

僕のテーマとして「理解と寛容」があるんだけど、悲劇がおきないこととして一番大切なのはそれではないかといつも思っている。「あいつはここまでのことをしたんだからこうされてもいいんだ」から「いや、でも少し許してみよう」と思うのは牧歌的だろうか。でもそれでも僕は寛容を信じたくなる。

今回の映画では不倫役として東出が出てくる(田中麗奈とのラブシーンあり)。これは全くこの映画に関係ないじゃないか、という意見もあるだろう。でも僕はそうは思わない。昨今の不倫バッシングに対し半ばリンチのように叩く「わたしたち」に対する森の一つの解答かもしれない。「正しい」から「暴力」への転換を僕は何よりも危惧する。

※田中麗奈(がんばっていきまっしょい)久々に見た。嬉しい。この映画では結構癖の強い演者が多い。水道橋博士(れいわ)、コムアイ(水曜日のカンパネラ)、東出昌大(不倫)、ピエール瀧(薬物)。いずれも「脛に傷を持つ」俳優だ。そこにも森達也の意図があるのではと深読みしてしまう。ちなみに怪演は水道橋博士。快演はコムアイ、東出であった。
ろく

ろく