メランクさん

福田村事件のメランクさんのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
5.0
森達也初の劇映画で実話をもとにしたものだということで、
それ以上はなんも知らないように待っていました。

演出とかどうなんかしらと不安もあったんだけど、
考えてみたら森達也のドキュメンタリーって
ドキュメンタリーの虚構性にもアウェアだったし、
役者を使ってどうこうはなくても、
演出と全く無縁の人じゃないんだよな。
「ドキュメンタリーは嘘をつく」って本についてたDVDでは
役者使ってフェイクドキュメンタリーも撮ってるくらいだし。

だから今作も演出で違和感あるなぁってのはほぼなく、
かなり豪華なキャストの演技はすばらしかった。

1923年という設定でほぼほぼ予想できてきたけど、
9月1日の震災があったところからこれから悲劇が起こることは覚悟できました。
ってか「事件」って言ってるわけだから起こることはわかってたけれど、
事件に至るまでの「殺す側」の描き方が非常に丁寧で、
とは言え調べれば日本人だとわかるのだし、
止めるタイミングなんかいくらでもあるにも関わらず、
やはり止められないまま暴走はじめ
ついに頭に斧が突き刺さるに至るまでの理屈が
本当にリアルというかわかりやすい。

だからこれは脚本がよくできてるってことですね。

ただ殺す側と殺される側を描いてくのみならず、
シベリア出兵とその前の日清、日露戦争から連なる暴力を礼賛する風潮や
やはりここでも圧倒的な有害な男らしさがプンプンする中、
井浦新夫婦、コムアイ、東出くんの情事など
本筋にしっかりと絡み付けるあたりがマジで面白かったです。
田中麗奈って人も本当にいい仕事するなぁ!

とにかく脚本がいいし、演出もうまくいってるし、
ポスターにもなってるラストの船とかきれいでした。
利根川を渡す船ってのもいいモチーフでした。

しかしこういうときに映画館に沸いてくるおじさんたちは
一体いつもどこに身を潜めているのよ?
あんたたちがいながらなんであんな与党や都知事がやりたい放題できちゃってるの?
と言いつつも今作みたいな作品が満員になってるのは「望」って思いたい。

そして見終わってみればあの記者の置き方や
人というものの頼りなさと希望を描くあたり
たしかに森達也作品だったなぁ。
またぜひ劇映画撮ってください!