抽斗ひきだし

福田村事件の抽斗ひきだしのネタバレレビュー・内容・結末

福田村事件(2023年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

特にラストにかけてがおそろしくて全身の力を使ったけど、一人一人(被害者も加害者も)が生きた人間として描かれていてとてもすごかった。観てよかった。
特に加害者側の描かれ方が丁寧ですごいなと思った。虐殺をして(さらには殺された人たちが日本人だとわかったあとも)「自警団を作れと言ったのはお上だった」「お国のためにした」と正当化する姿には絶句するしかない。歴史修正主義者たちはこのようにして事実を歪曲し、なかったことにするのだと思った。

朝鮮人だけでなく、被差別部落出身者やハンセン病患者への差別、社会主義者への弾圧、ジェンダー、ジャーナリズムなど様々な問題を丁寧に拾いつつ、その構造をあぶり出していて本当にすごいと思う。
被差別者の中でもさらに差別があること、大震災以前から日本がずっと朝鮮を侵略・支配してきたこと、権力への疑い、などなど挙げればきりがない事柄が描かれており、この映画はそれらの複雑さにちゃんと向き合っている。
現実は複雑で、わかりやすい原因などない。それらの問題に、私たちはひとつひとつ向き合っていかなければならないのだと思う。

人々に良心があり、抑止力がはたらきながらも、どうして虐殺は起こるのか。映画のラストで、殺された10人にはちゃんと名前があったんです、というシーンがある。私はその人たちの名前を知らなければならない。この世界に殺されてよい人などいない。
私自身が差別者となって誰かを殺してしまわないために、いろんなことを知らなければならない。そう思う。