ベルベー

機動戦士ガンダムSEED FREEDOMのベルベーのネタバレレビュー・内容・結末

機動戦士ガンダムSEED FREEDOM(2024年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

大・満・足!話の整合性とかリアリティとか関係ない、外連味強すぎ色ボケしすぎ、でもこの圧倒的熱量と多幸感はなんだろう。ちょっと違うかもしれんがラージャマウリ作品を観た後の感覚に近い。それはきっと、どれだけ無茶苦茶な展開であってもシリアスな笑いがあっても、一貫して「愛」というテーマに忠実だったからだろう。そして「機動戦士ガンダムSEED」というコンテンツが、20年以上かけて辿り着いた答えが「愛」だったからだろう。激アツ。

ツッコミどころは沢山ある。めっちゃ沢山ある。そもそもこんなノリだっけ!?とか、こんなノリの割に相変わらず露悪的に虐殺するね!?とか、いや軽くスルーしてるけど今の神業何!?とか、開き直って敵は皆殺しスタイルなのね…とか、10分で全国民避難!?とか、今の神業何!?とか、敵の煽り耐性の低さとか、バレバレのハイジャック作戦の意味のなさよとか、今の神業!!??とか。主に神業何。操舵スキルどないなっとんねん。

でも間違いなく楽しかった。これは大多数の観客の感想が一致しているようで、凄いことじゃないか「SEED」で楽しかったって。でもそれって「SEED」ファンが観たかったものは何か、信じたかったものは何かが20年かけて形になったからだと思うんですよね。20年必要だった。それくらい、「SEED」が生み出した功績と批判は大きかった。

仮に「SEED DESTINY」から5年後或いは10年後とかのタイミングで全く同じ内容の劇場版があったとしても、同じように楽しめたとは思えないんですよね。今だからこそ肯定できる作品だと思う。

ガンダム的に言えば、「SEED DESTINY」の後「00」があり「UC」があり「AGE」があり「Gレコ」があり「鉄血」があり「水星の魔女」があり。「ビルドファイターズ」のような変化球があり「閃光のハサウェイ」が令和になってアニメ映画化されたりがあり。これら全部が絶賛された訳ではなく、中には厳しい評価を受けた作品もあるけど、でもこれらがあったから「ガンダム」とは何かという定義が拡張し、翻って「SEED」とは何だったのか、ファンは見つめ直すことが出来るようになったのでは。

この20年で現実世界に起こったあらゆる出来事も大きく影響しているでしょう。戦争があり震災があり疫病がありまた戦争。インターネットとの関わり方も大きく変わった。それこそ2002〜2005年当時は2ちゃんねるがどれだけ大変だったか…今の方がモラル低下している側面もあるが、少なくとも「SEED」というコンテンツへの向き合い方は良い方向に変わった気がする(多勢としてはね)。

そして遂に公開された劇場版。先に書いた通り、整理されたものではない。欠点はある。しかし、今更そんなことに目くじら立てる我々ではない。何故なら、欠点以上に楽しさと誠実さに満ち溢れた映画だったから。

劇中ラクスが語る言葉。「必要だから愛しているのではありません。愛しているから必要なのです」これ、本当素晴らしい。エーリッヒ・フロムからの引用らしいけど、「SEED」と「SEED DESTINY」をこんなにポジティブに総括する言葉があるのかと感動した。そしてその軸は、本作を通して一切ブレていない。キラとラクス。シンとルナマリア。アスランとカガリ。ひいてはナチュラルとコーディネーター、人類。C.E.に向けた完璧なアンサーである。

この言葉に対して誠実だから、大なり小なり沢山あるツッコミどころも愛嬌として機能する…というか、本当に愛を持って意図的に作られたツッコミどころだから、というのもあるんだけれども笑。楽しいし、嬉しいよね。登場人物も監督も余裕が出来たんだなあって。ボロボロになって必死でもがいていたあの頃があったからこそ。

完璧超人ぶりが鼻についたキラとラクスが、あの時どれだけ無理をしていたか。狂犬のようだったシンが、あの時どれだけボロボロだったか。どうしても負の側面がフォーカスされがちだった彼等に、この映画は救いを与えてくれた。アスランはアスラン。迷おうが迷うまいが、一番おもしれー男だったというのがよく分かった。

新キャラも良くて、ファウンデーションの連中が徹底的にヒールだからこそ、奴等を倒すカタルシスが大きい。それは18年越しのカタルシスでもある。でもじゃあ倒される以外に意味のない奴等だったのかというとそうではなくて、彼等には彼等なりの哀しみがあるというのも良い塩梅だった。それはそれとして、倒さなくてはならないよねってなること含めて。

味方側の新キャラはね…コノエ艦長とハインラインがね!「あ、この2人がいれば負けないわ」ってなる頼もしさが完璧だった…あの頃、味方にこういう人達が欲しかったという希望そのもの。後藤隊長とルルーシュがいるようなもんで笑。ただでさえノイマンいるのに。アグネスは桑島声の性悪女でモロにクェスオマージュという分かりやすさ。その上で彼女を殺さなかったのが、非常に象徴的だなと。

キャスト。保志総一朗、田中理恵、石田彰、鈴村健一、坂本真綾、皆ずっとゲームとかで定期的に演じていたとはいえ、ここまで声も演技もあの頃のままでいられるのかと驚いた。いや、あの頃のままは語弊があるな。あの頃から成長したキャラを見事に演じてくれた。カガリのキャスト変更はどうしても残念だが…森なな子良いんだけどね。

新キャラのキャスティングも絶妙で、「SEED」と同年の「ラーゼフォン」で主役デビューを果たした下野紘が"新人類"アコードのリーダー格を演じるというのが味わい深いし、「00」以降のガンダム常連である中村悠一が「00」以前の「SEED」で遂に登場というのも面白い。敵首領を演じる田村ゆかりは保志総一朗が主演の「スクライド」でヒロインを演じた声優だし…あとあの設定にこれ以上ハマる声はないと思う笑。福山潤のルルーシュを彷彿とさせる喋りもロボットアニメファン的にはグッとくるし、ガンダムで強キャラを演じることの多い大塚芳忠が味方にいるのも心強い。あと「レディ・プレイヤー1」から逆輸入(?)の森崎ウィン、自然に馴染み過ぎている笑。

モビルスーツも良いよね…てか「SEED」に登場するモビルスーツって超カッコいいよなあと改めて思った。どのガンダムもスタイリッシュ。ブラックナイトスコードのザ・敵って造型も良し。話題沸騰のジャスティスinズゴックとか分身デスティニーとか、カッコよくて面白ければ道理なんて二の次ということが良くわかる笑。美味しいとこでアカツキが出てきたのも上がったなあ。

音楽も西川貴教、中島美嘉、See-Sawが揃うという贅沢さ。しかも「Meteor -ミーティア-」まで流れる!「機動戦士ガンダムSEED」の劇場版として文句無しの快作。まさかこんなポジティブな気持ちになれるなんて。ちょっと嬉し過ぎるサプライズでした。
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