Jun潤

神回のJun潤のレビュー・感想・評価

神回(2023年製作の映画)
3.5
2023.07.21

青木柚主演。
東映ビデオが主催の「TOEI VIDEO NEW CINEMA FACTORY」にて第一回製作作品に選ばれた作品。

とある夏の日、誰もいない学校に登校した沖芝樹は、約束をしていた加藤恵那を待っている最中にうたた寝をしてしまった。
樹が恵那の声で目を覚ますと時刻は13時、彼女と二人で文化祭の出し物の打ち合わせをしていると、突然気を失ってしまう。
目を覚ますと、時間が13時に巻き戻っていた。
困惑した樹は、校内にいる人たちを時に頼り、時に抵抗しながら、タイムループから抜け出そうとするが、どれも解決には結びつかない。
何度もタイムループを繰り返すうちに、ずっと一緒にいた恵那に対して邪な感情を抱いてしまう……。

これはな〜、樹の気持ちが分かってしまう男は多いのではないでしょうか。
さすがに同意無しで無理矢理とか、暴力に手を出すまでには至ってはいけません。
そのことも重々承知してます。
恵那にとっては同じ五分、少し顔を合わせるだけのたった五分。
しかし樹は、教室や学校という閉ざされた空間でずっと同じ女性を目の前にしている。
彼が劣情を感じてしまうことも、男子高校生だし、タイムループという超特殊な状況を考えると、、なぁ〜。

作品としてはまぁ荒削りも荒削り。
体育教師の手を掻い潜ろうとしている時にいや靴履き替えろよと思いました。
演出にこだわっていることが伝わってくる場面もあります。
しかしどうにも唐突感が否めないなどはありました。
しかし今作はどちらかというと演出やストーリーよりも、強いメッセージ性の方が光っていたと思います。

個人的に感じられたのは、延命治療に対するアンチテーゼ、賽の河原の石積みのメタファー。
その他にも何も無い何も進まない五分間の積み重ねこそが人生であるということ。
そして、陰キャが最期に見る光景は学生時代まで遡らなければならないどころか、その光景すらも妄想になってしまうのかという虚しさです。
ちょいと多すぎますかね。

延命治療については描写もそのままです。
高校生時代の樹が見ている光景が走馬灯や妄想であっても、樹の精神か魂は、ループする世界に縛り付けられて死ぬこともできないと苦悩している。
そんな姿を観ると家族の愛すらもエゴになってしまう危険性があるのかなと感じました。
賽の河原の石積みは、本来の意味では親よりも先に亡くなってしまった子どもが行く場所とされています。
今作では子どもだけでなく大人も、死んだ後もしくは死の間際に行くのは天国や地獄や閻魔大王の間、三途の川ではなく、時間がループする永遠に近い牢獄なのかもしれませんね。

五分の積み重ねが人生だとか、陰キャの妄想の虚しさなどは、斜に構えて観たからそう感じたのかもしれません。
しかしそう捉えてから中盤までのシーンを思い返すと、樹の一見無駄な行動こそが人生においては重要なのではないか。
浅慮なままでいることは恐ろしいことではないのか。
「考える葦」である人間だからこそ思慮を深くしなければならない。
本作自体が、そんな人生のアンチテーゼにもなり得る仕掛けだったのかもしれません。

樹はいつ幸せだったのでしょうか。
生命の灯火が残る限り生き続けたことか。
かつての想い人が訪ねてきてくれたことか。
人生の最期に、妄想だとしても学生時代の思い出に浸れたことか。
愛は無くても医者(?)として本に載るほど成功したことか。
しかし人生の最期に思い出すということは、儚い思い出だとしても人と触れ合えた時だったのですかね。
Jun潤

Jun潤