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正欲のfujisanのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
3.6
”普通”を巡る物語。

『桐島、部活やめるってよ』を書いた朝井リョウの同名ベストセラー小説を、稲垣吾郎と新垣結衣の共演で映画化した作品。

『観る前の自分には戻れない』、『傑作か、問題作か』などの煽り文句に釣られて、観てまいりました。

ちなみに、原作未見でこれを書いているので、的はずれなことを書いていたらすいません。。

また、本作のストーリーをネタバレ無しで書くのは難しいので、今回は感想のみ書く形としています。



『誠意って何かね?』

そう問いかけたのは『北の国から』の菅原文太でしたが、本作は言うなれば『”普通”って何かね?』 を問い続ける映画でした。

劇中で稲垣吾郎演じる検事の啓喜は不登校になった子どもに対して”普通”に育ってくれと願い、新垣結衣演じる夏月は、結婚してこどを生むもんだという”普通”に押しつぶされそうになっています。

普段、あまり深く考えずに使っている、この”普通”という言葉。

辞書では”他と特に異なる性質を持ってはいないさま。”などとあるのですが、考えてみれば、何と比べているのかよく分からない言葉。

本作では、そんな曖昧な”普通”を体現したような役の稲垣吾郎が、それ以外のなんらか”普通ではない”人たちと対峙してく構図になっていました。


個人的には、”普通”とは、多数派を便宜上そう呼んでいるだけであって、普通=正しいものというものではないと思っています。

例えば日本人の血液型で最も多い血液型はA型ですが、A型を普通とは呼びません。でももし、9割の人がA型であれば、A型が普通の血液型ということになるのでしょう。

また、判断の切り口も無数にあって、それは食事や服装、また本作に描かれているような性的指向や生き方まで。人はある切り口で見れば”普通”であり、ある切り口で見れば”普通ではない”ものなんだと思います。

それを、普通=正しいこと、というフィルターをかけることによって、途端に『普通』に生きることが難しくなってしまうのかな、と。

映画のクライマックスは、そんな”絵に書いたような普通人間”稲垣吾郎 VS ”普通に生きる重圧を理解している新垣結衣” の対決。

秀逸なラストシーンから、Vaundyの音楽によるエンドロールにつながる流れは、最近劇場で観た邦画の中で一番良かったような気がします。

”普通”とはなにか、考えてみれば自分も安易に使っている言葉なので、気をつけないと、と思いました。

『あっちゃいけない感情なんてこの世にないから』

とても刺さる言葉でした。




俳優について:

まずはやっぱり、稲垣吾郎さんの存在感。様々な”普通ではない”人達との対峙を一手に引き受けるためには、彼が圧倒的な存在感でないと成立しません。

そんな難しい役柄を、「十三人の刺客」で見せたようなサイコパスみのある無表情で見事に演じきっており、”普通”であることが逆に狂気じみて見えてくるっていう、見事な存在感だったと思います。

次に、男性恐怖症の女子学生を演じた東野絢香さん。正直、初めて見た役者さんでしたが、繊細ながらも感情溢れる演技は圧巻で、ある意味全部持ってった感がありました。これから色んなところで名前を聞くことになりそう。

最後に、稲垣吾郎演じる検事の助手を演じた宇野祥平さん。劇中では最も多様性についての理解者であり、寿司屋の大将みたいな見た目と繊細な演技のギャップで、人は見た目じゃないってことを体現する演出になっていたように思います。


映画について:

映像では水の映像が効果的に使われていたのですが、終盤の車で坂を下っていくシーンでは潜っていくような水音も効果的に使われていて、全体を水のトーンで統一した演出は美しかったです。

正直、前半は単調さを感じたのですが、中盤で桐生が軽自動車を運転するシーンのあたりからはグイグイと引き込まれ、ラストまで一気に持っていかれました。

ただ、桐生(新垣結衣)と佐々木(磯村勇斗)の二人にフォーカスが当たりすぎているように思え、諸橋(佐藤寛太)と神戸(東野絢香)のストーリーが薄かったように思えて残念だったのと、

とある部分にちょっとモヤモヤが残ったのも事実で、『観る前の自分には戻れない』っていうほどのインパクトはなかったかなぁというのが全般の感想です。


以下、どうしてもネタバレになっちゃう感想を少し続けます。

























本作ですが、原作未読で観たこともあって、最終的にどこまで行くのかわからず、怖かったです。

少なくとも、登場人物の誰かは死ぬのでは、と思ったし、途中で読めた展開の中、諸橋(佐藤寛太)がゴローちゃんの子どもを手にかけてしまうのかな、とか。。😅

なので、最終的にはそこまで胸糞展開にならなくてよかったです。

モヤモヤが残ったのは、終盤で突然現れた登場人物によって、ストーリーに、普通かどうかの視点に加えて、合法か違法かの視点が増えてしまったこと。

多様性の観点と違法性の観点が合わさってしまって、2時間の映画の中ではスッと腑に落ちない感じがしました。

とりあえず、年末年始で時間ある時に読んでみようかなーと思っています😉




2023年 Mark!した映画:323本
うち、4以上を付けたのは36本 → プロフィールに書きました
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