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ソイレント・グリーン デジタル・リマスター版のfujisanのレビュー・感想・評価

3.5
『見ろ、人がゴミのようだ!』
と言い放ったのは、天空の城ラピュタのムスカ大佐でしたが、本作、1973年制作のディストピアSF映画「ソイレント・グリーン」では、実際に人間がショベルカーでゴミ収集車に放り込まれていました。

そんな強烈な風刺の効いたディストピアSF作品
オリジナル版は未視聴でしたが、カルト的な内容から熱心なファンが居ることでも有名で、観たいと思っていた映画。今回4Kリマスター版が上映ということで観に行ってきました。



原作はハリイ・ハリスンの『人間がいっぱい』
50年前に想像された、2022年のニューヨーク。人口爆発によりそこら中に人があふれる中で、食料はすでに枯渇し、人々が口にするのは、政府お抱えの食品会社ソイレント社が製造するクッキー状の食べ物のみ。

海洋プランクトンが原料といわれる ”ソイレント・グリーン” は、その名の通りのグリーン色。ちょうど、正方形の抹茶クッキーみたいな感じでしょうかね。

そんな、ほとんどの人がホームレスのような生活をしている中で、一部の特権階級の富豪たちは豪華な近未来住宅に住み、生野菜や肉などの希少な食料を食べ、メイドとして、”家具”と呼ばれる美女をはべらせているのでした。

一方で寿命も伸びており、”本(Book)”と呼ばれ、現役世代のサポートをすることで生きている一部のインテリ老人も居つつ、”ホーム(Home)”と呼ばれる、公共の安楽死施設も存在しており、いつでも人生を終えることができる、そんな暗鬱とした未来風景。

映画では、とある特権階級の男が自宅で暗殺され、チャールトン・ヘストン演じる刑事がその犯人を追ううちに、隠されたソイレント社の大きな秘密に気づいていく、というストーリーになっています。



今回、このタイミングでリマスター版が作られたのは、映画がちょうど2022年を描いているということもあると思いますが、ホロコーストを描いた「関心領域」の上映と合わせたのかなというのと、世界の穀倉地帯ウクライナ戦争が招く食料不足とも合っているように思えました。
(ソイレントとは、大豆(SOY)とレンズ豆(Lentil)からの造語)

幸い、今はまだ映画のような人口大爆発は起こっていないわけですが、極端な格差や一部特権階級による富の支配、また、長寿命化による安楽死の問題、食糧問題など、現在を言い当てている側面もあり、大変興味深い内容でした。



少し脱線しますが、今年、藤子・F・不二雄生誕90年ということで、過去、いくつかのレビューで引用させていただいた「T・P(タイムパトロール)ぼん」や、NHKではSF短編の映画化など、いくつものコンテンツがリバイバルされています。

藤子・F・不二雄 生誕90年特設サイト
https://f90.dora-world.com/

藤子・F・不二雄作品といえば、ドラえもんなどほのぼのしたイメージがありますが、SFものではトラウマ級のディストピア作品もたくさんあり、私自身、幼少期に観ていまだにトラウマになっている作品もいくつかあり、今回思い出してしまったのが、「21エモン」のとあるエピソード。

21エモンは、ロケットで様々な星を探検する漫画なのですが、地球よりもかなり文明が進んだ星では、ドームのような施設に続く長いベルトンベアーがあり、その上に設置された椅子にはご老人が座っています。

老人たちはみな機嫌よく椅子に座っており、なにか楽しいイベントでもあるのかと思った主人公の少年は自分もそこに座るのですが、その先は”無の世界”であり、生きるのに飽きた老人たちは、自らの意思でそこに吸い込まれていたのでした・・・というエピソード。

今見るとなんてことない話ですが、幼少期にものすごくショックを受けてしまい、未だに鮮明に絵が浮かぶほど(なので、怖くて「PLAN75」は観れてません・・)

本作「ソイレント・グリーン」についての皆さんの感想を読むと”昔トラウマになったことを思い出した” 的な内容が多くて、この映画もそのたぐいの映画だったんだな、と思いつつ、(まだ生まれてない時代の映画ですが)小さい頃に観なくて良かったと強く思ってしまいました😓

(今観ると、人間が重機でガーッと処分されるところとか、ちょっと笑えてしまうのですが・・😅)

と思っていたらなんと、「21エモン」で全く同じシーンをX(Twitter)で見つけてしまいました。
多分これ、トラウマになってる人多いんだろうなぁ(笑

ということで、今観ると若干コミカルな印象を受ける映画でもありますが、なかなかおもしろい映画でもありましたよ。
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