fujisan

ロスト・イン・トランスレーションのfujisanのレビュー・感想・評価

4.0
異世界で見つけた心の共鳴

2003年、ソフィア・コッポラ監督が30歳で撮ったとは思えない大人のラブ・ストーリー。

妻とは倦怠期。落ち目で中年のハリウッド俳優ボブ・ハリス(ビル・マーレイ)と、売れっ子カメラマンの夫について日本に来た孤独な若い人妻シャーロット(スカーレット・ヨハンソン)が、異国の地、東京で過ごす数日間のラブ・ストーリー。

リドリー・スコットが描いたブレード・ランナーのような、まるで時代も惑星も異なるかのようなトーキョーの街。全てのコミュニケーションは翻訳の中で失われ(ロスト・イン・トランスレーション)、取り残された二人は孤独の中で惹かれ合う。

ミドルエイジクライシス(中年の危機)真っ只中で将来に希望を見失った中年男性と、大学卒業後間もなく結婚したことで今も自分を探している若い女性。ロストした”自分”を探す二人の共通点が、親子ほども年齢が違う二人が惹かれ合うことの不自然さを感じさせません。

20年前の渋谷のスクランブル交差点は日本人だけが歩き、室内での喫煙もOK、ネオンのけばけばしさも一世代前の風景で、今観るとさらに異世界感を高めていました。

ペコペコ頭を下げながらも表情はニヤニヤしていて感情が読めず、LとRの発音は使い分けられず、ヘンテコなカタカナ英語を押し付けてくる日本人たち。当時は日本を馬鹿にしてるという声もあったようですが、それ含めてヘンテコな国日本は、今や世界から人気なわけですから面白いですね。

映画でも、最初の数日はホテルのラウンジ・バーから出ることがなかったボブが、寿司屋に行き、しゃぶしゃぶ屋でなんて失礼な店だと冗談を言い(自分で料理させる店なんて)、最終日は寝間着に浴衣を着てすっかり日本好きになっていたのも、素直に嬉しかったです。

本作のラストは未だに話題になることがある印象的な終わり方。
帰国するボブが、シャーロットの耳元でささやくセリフはビル・マーレイのアドリブと言われ、ビル・マーレイとスカーレット・ヨハンソン、監督のソフィア・コッポラしか知らない魔法の言葉によって、未だにこの映画の魔法が解けない人も多いはず。

日米の曲が織りなす素敵な音楽も相まって、今観ても、喜怒哀楽、色々な感情が揺り動かされる奇跡の一作だな、と思える作品でした。



今年のGW、大阪シネマート心斎橋でソフィア・コッポラ監督作品特集が開催されていて、はじめてこの作品をスクリーンで観ることが出来たのですが、当時のフィルムのザラつきも映画の内容に合っていて、素晴らしかったです。

途中、何作か観ていない映画もありますが、ソフィア・コッポラ監督作品の中ではこの作品が圧倒的にNO1。ただ、この作品で18歳のスカーレット・ヨハンソンを見出し、奇跡の一作が撮れてしまったことで、その後同じパターンを探し続けてしまっているのかなと、先日「プリシラ」を観て思いました。

ただ、音楽と映像、そして、女優を発掘する才能は素晴らしいものがありますね。今回あらためて観て、自分でも驚くほど心に響いてしまったので、円盤ポチってしまおうかなと思っています👍
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