原作ありきでの感想だけど、要所は上手く描写されているとなと思った。ただ前半は特に、夏生の性癖が明かされず情緒不安定な女の子に映ってしまい感情移入しづらくのっぺりした展開だった。
徐々に夏生、佳道、諸橋、寺井の視点が交錯する中で、溺れる様な息苦しさに呑み込まれる。生まれ持った趣向は性癖も含めて千差万別なんだから、相手の気持ちを理解する多様性が大事なんだよ、と世の中で正とされている論説をこの作品は肯定している様で完全否定している。それは八重子を肯定側、諸橋を否定側として描写される。そう言えば八重子、諸橋にありがとうと言われてよかったなあ。(原作ではミドルクラスのマイノリティで、ただ救われない偽善者として描かれる)
そう、理解がほしいのではなく、理解なんて永久に絶対にできないのだからこちらの世界に入ってこずに放っておいてほしいのだ。そこには絶対に渡れない大きな溝がある。そうしたマイノリティは同時に孤独を抱えており、ただ一点を除いてはすべて同じ人間なのに、マイノリティが故に生きづらさを感じで希望を持てずに生きている。そうしたことを知っていることは、少しだけ世界を優しくするかもしれない。
