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ウィッシュのしののレビュー・感想・評価

ウィッシュ(2023年製作の映画)
3.1
「願いとは?」「夢とは?」というテーマではあるのだが、どちらかというと「それをお届けする我々ディズニーとは?」の方を強く感じてしまった。なのでディズニーファンにはいいかもしれない。ただ、その点でも同時上映の『ワンス・アポン・ア・スタジオ 100年の思い出』のほうがグッときたな……とは思ってしまう。

このシンプルさこそがディズニー精神ということなのかもしれないし、実際、クライマックスの“This Wish”はシンプルでストレートだからこそ力強くてグッときた。この楽曲が最終的にどのように歌われるかが本作のテーマを提示していて、あれは近年のディズニー作品のミュージカルシークエンスでも抜きん出たものがあった。メインテーマの使い方という最重要ポイントで外さないので作品全体も外さない。

ただ、このシンプルさは言ってしまえば結論ありきの空虚さでもあって、答えが見えてる話を延々聞かされる感じもした。

まず、民の願いを守ると言って偽りの希望を与える欺瞞の国王がどんどん権力欲に取り憑かれて暴走していくのは、流石に「打ち倒すべき悪」すぎやしないかと思う。別に勧善懲悪が悪いとは言わないが、ただここまでやってしまうと、もはや願いの意味が云々みたいな話と関係なくなってしまう。国王の主張としては「叶えられないかもしれない願いを持つくらいなら忘れてしまった方がいいのでは?」ということだったはずだが、物語展開上の問題になるのは「国王が自分にとって都合のいい願いしか叶えてませんでした」という点なので、そもそも問題提起の時点で噛み合っていない気がする。

本作のコアとなる主張は、導入部で語られるように「願いは単なる思いつきではなくあなたをあなたたらしめる心そのものなのだ」ということだが、こういう物語展開だと「願いは誰かに叶えてもらうのではなく自分で行動して叶えるものだ」というニュアンスの方が強くなってしまうので、これまた若干ズレている気がする。では願いは持っとけばいいのか? 叶わないかもしれない夢を抱くことに意味はあるのか? という切実なテーマに本作が答えられているかというと、その強度はないなと感じた。

こういった切実な部分は描かない代わりに、往年のディズニー作品へのオマージュが加わってくるので、総括的というよりはなんだか話を勢いで誤魔化すための要素に見えてしまう。とりあえずお約束の動物合唱は楽しいし、スターくんはキラキラしてるし、国王めっちゃ悪いからね! という曖昧さ。その上、ラスト〜ポストクレジットにかけて「以上、ディズニーがお送りしました!」と何度も念押しされるので尚更そう感じる。

たとえば実写版アラジンでは「魔法はあくまで背中を押すためのもの」という謙虚で誠実な描き方をしていたわけで、その後に本作の「なんか楽しげな賑やかし要素」でしかない魔法の扱いを見ると、後退している感すらする。ラストで主人公があのアイテムを渡されるのもテーマ的に微妙だし。

もちろん、前述の通り決して外してる作品ではない。ただ、単作としての力強さより「ディズニーを総括せねば」が優先されてる感じが、むしろ今のディズニーを象徴しているようだった。総括をしつつ、そのコアとなる「星に願いを」精神を伝えるという意味では、やはり同時上映の短編の方が必要十分なことをやっていたと思う。

※感想ラジオ
【ネタバレ感想】良くも悪くもディズニー?『ウィッシュ』に見た100周年の「魔法」の怖さ https://youtu.be/nZ8116gnIuA?si=k8qyQXCu4OUthELt
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