こなつ

フェイブルマンズのこなつのレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
4.0
映画を観ない人でも、その名だけは知っているだろうスティーヴン・スピルバーグ。

50年もの間、多くの作品を世界に送り出してきた彼の原点である少年時代。自伝的作品「フェイブルマンズ」は、スティーヴン・スピルバーグの監督への夢を叶う道のりが詳細に綴られているのかと思ったら、それは彼の家族の物語だった。

ドキュメンタリー作品ではないので、フィクション的要素も多く含まれているのかもしれない。フェイブルマン一家というタイトルにしても、実在しそうにない家族のような名前であるが、作品を観ていくうちに、彼はこの作品の中のような両親のもとで育ったからこそ、映画監督の夢を叶えることが出来たのではないかと感じるようになった。

芸術家で自由奔放な母ミッツィ(ミシェル・ウィリアムズ)と真面目だけが取り柄の技術者の父パート(ポール・ダノ)。
5歳の少年サミー・フェイブルマンは、両親に連れられ初めて観た映画「地上最大のショウ」に大きな衝撃を受ける。怖くて仕方なかったのに、その怖さが忘れられない。映画にはそんな魅力がある。そして母からプレゼントされた8ミリフィルムで、家族や仲間を撮っていくうちにいつしか映画を制作することに興味を持つ。

芸術的センスのある母の血を引くが、カメラを自由自在に操る姿は、まさに技術者の父親譲りだ。映画を作ることは何の役にも立たない趣味としてしか捉えていなかった父、好きなことをやるべきだと背中を押してくれた母。子供にとっては凄くバランスの良い両親だと思って観ていたが、結局二人は別れてしまう。

「すべての出来事には意味がある」と教えてくれた母は、自分の気持ちに正直に生きていき、家族を翻弄する。フィルムから通して見える残酷な真実で母の秘密を知り、嘘の世界が暴かれる。無意識に撮った映像が他の人を追い詰める。辛いことを経験しながらも最終的には映画人として生きて行きたいと思った彼の切実な思いは、映画が人々に悦びを与え幸せにすると確信したからに違いない。

サミーが成長していく姿を作品を通して感じることができ、今や世界の人々の心を掴んで離さない偉大な監督、スピルバーグの原点を垣間見ることが出来て良かった。

個人的に印象に残ったのが、ボリスおじさん(ジャド・ハーシュ)の風貌だ。とてもインパクトがあったし、彼の言葉は心に響いた。監督ジョン・フォードの地平線の話も素敵だった。

エンドロールで流れた両親への感謝もまたこの作品の意味を強く感じた。
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