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aftersun/アフターサンのminamiのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.0
2023年は『怪物』が最強で、これを超える作品とは出合えないと確信していたのに、早くも揺らぐ作品と出合ってしまった……。

これは映画館で観ることを選んで正解の作品だった。
観終わったあとお酒を片手に話していたのだけど、最近よく聞く「早送りで映画を観る人々」には絶対に楽しめない映画だと思う。

間合いと表情の中に見えるわずかな皮膚の動きと、会話の中で一見関係ないものにフォーカスする撮り方と、それらすべてをリアルタイムで見聞きし感じ取って成立する話というか。
しかも大きなスクリーンで見るとなおさら一つひとつが際立つ。(音楽もよすぎ)

説明が一切ないのもいい。
映画はこれでいいんだ。これがいいんだ。
観る者に全部委ねてくれる、この不親切感が粋でむしろ親切なんだ。

大人になりきれない30歳(途中で31歳になる)の父親と11歳、思春期まっただなかの娘の旅は、経験したことのないはずなのにどこか懐かしい気持ちにさせてくれ、そしてどちらの気持ちも深く刺さる。

父の脆さを裏付けるようなバックボーンは設定されているのだけど、それはあくまでも奥行を感じさせるためのものであり、「はい、これが答えです!」といった感じで提示してくるような無粋な真似はしない。
時系列がぐちゃぐちゃなのも最高。撮り方や演出も最高。

すべての行動や発言に意味があり、そして同時に意味などないように思う。
現実に生きている私たちの行動や発言がそうであるように。

たとえば一緒にビリヤードした女性の持っていた黄色い「なんでも」タグをソフィが見つめていたシーン、そして別の日にそれを譲り受けるシーン、男性同士でキスするのをたまたま目撃する(が特に表情は変わらず、なにを考えているのかは読み取れないし、そもそもわずか一瞬のできごと)シーン、どれも早送りなんかしちゃったら見落としてしまうんじゃないかなと思う。

これらが思春期の少女に与えた機能を自身の中で見出すことは容易だけど、たぶん受け取り方は人それぞれ違っていて、鑑賞者の思考の幅を狭めないでいてくれるこの作品の尊さよ。

きっともしこのあと10年後、15年後、20年後にも彼らが会うことができたなら、娘のほうが父を追い越して大人になり、彼のことを許せたんじゃないかなと思う。
家族なんて、結局互いに努力を重ねないかぎりなんの絆もないものだ。
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