AZ

aftersun/アフターサンのAZのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
-
記憶というものは曖昧で不思議なもの。時にデフォルメされていたり間違ったイメージとして残っている時がある。また忘れていたと思っていたものも、一つのきっかけで鮮明に思い出す時がある。

今作の場合、自分の視点だけではなく父親の視点によって父親が自分へ向けていた思い、そして自分が父親に抱えていた気持ちを再認識するとともに、当時は見えていなかったものが見え始めるという感覚を味わうことができる。

感覚を味わえるという部分がポイントで、明確にそれらを描写しているわけではなく、その時の2人の感情というものは行動や表情からしか伺い知れない。だが、強烈に伝わってくるものがある。

何気なく過ごした2人のバカンスが、人生の中ですごく大切なものだったのだと。と同時に襲いくる喪失感。その当時はまだ若く、大人になり理解できなかったものが理解できてった時、嬉しさよりも寂しさが優ってしまう。もう戻れないものというものは本当に尊い。

----------

離れて暮らす若き父カラムと娘のソフィ。久々に2人は再開し、トルコのリゾートでゆったりとした時間を過ごす。

色鮮やかな空間、真っ青な青。映し出されるものは幸せで溢れている。思い出の中はキラキラと輝いている。だが、時折見える寂しさ。

2人が過ごす時間は楽しそうな姿ばかりだが、ともに別行動する姿の中に見える内に潜むもの。ソフィの場合は思春期で、少しずつ新しいものを吸収し大人になっていこうとしている。そんな彼女にアドバイスを送るカラム。そのアドバイスは良いものもあれば悪いものも含まれる。だが、そこには必ず彼女への尊重が含まれる。その当時はなんとなくでしか聞いておらず、笑って受け流してしまった。だけど、客観的に見ると少ない時間の中で自分が教えられることを真剣に伝えようとするカラムの姿がある。

そしてカラムだが、1人になった時の孤独感が強烈に描かれる。娘の成長、優しい姿に嬉しさを感じながらも、そんな彼女のそばにいられない自分という存在に虚しさを感じている。

印象的なシーンはいくつもあるが、特に誕生日のお祝いを近くにいた人達とみんなでするシーン。普通ならすごく嬉しいシーンなのだが、複雑な表情をするカラム。それは、その優しさが強ければ強いほど自分の状況に傷ついてしまうから。

優しい眼差しの奥にあるこの孤独感が、常に強烈に伝わってくる。娘を思えば思うほど、その孤独感は強くなっていく。

それらを象徴的に描いているシーンがある。1人部屋にこもって泣くシーンや、海に向かって歩いていくシーン。太陽のように光り輝く時間もあれば真っ暗な時間もある。つまり光が強いほど影はより黒く濃くなる。

もう一つ印象的なシーンを挙げるとカラオケのシーン。あそこでなぜカラムは彼女の要望を拒否したのか。それも、上記のようにこの時間を楽しめば楽しむほど、幸せを感じれば感じるほど、その後に返ってくるものを恐れての行為だろう。

この恐怖に怯える姿は、まだカラムが若いからというのもある。彼もまた、現実を受け入れるにはまだ若く、精神状態をうまく保てないからだろう。親だからといって決して強い存在ではない。その人なりの弱さというものは必ずある。

寂しさというもののニュアンスにも大きな違いがある。ソフィの寂しいとカラムの寂しいは似ているようで全く異なるものだったと思う。ソフィは寂しいけど、ポジティブな考え方をしている。空を見れば一緒にいれるのだと。だが、カラムは違う。それは人生というもの彼女より理解しているからだろう。ソフィにとって重要な時間の中に自分がいないという現実。この対比が辛い。

そんな彼の眼差しの奥にある思いが20年後に、理解できるようになったソフィ。だが、時間は無常にも過ぎ去っている。

撮影を終えたカラムは闇の中に消えてく。

----------

野暮な話だが、カラムは死んでしまったと考えていいのだろうか。どうしても、死を匂わせる描写が多く、そう思わざるを得ない。ただ、そのあたり言及はされていなかった。

とにかくカラム役のポール・メスカルがめちゃくちゃ良かった。複雑な感情が、表情だけで強烈に伝わってきた。終盤はどんな姿からも寂しさが伝わってきた。30歳役だが、なんなら30代後半にも見える。ただ、実際は27歳ぐらいという若さ。

テレビの画面に反射して大人になったソフィの影が映るシーンが好きだ。思い出の中に同居している感じがこの映画を象徴的に表現していたと思う。見事。

アフターサンは日焼け後の意味。フィルムや記憶に焼き付けるという意味にかかっている。

そして、もう一つ感じたのが太陽の弊害。日焼けとは体を傷つけるもの。ソフィは太陽で、その日差しに照らされたカラムは嬉しさとともに傷つきもしたのだと思う。愛があるゆえに。そして、それを20年後に感じ取ったソフィ。

その様子を淡々と映し出される2人の姿から静かに強烈に感じれる作品だった。
AZ

AZ