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aftersun/アフターサンのmitzのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.0
20年前の父親 カラム との旅行。そのホームビデオを観ながら、大人になった ソフィ の現在の視点で当時の父親の気持ちに思いを馳せる、娘の記憶を辿る特殊な様式の物語。
全体を通じて豊かな余白があり、多くは語らずとも小さな演出の数々から感情の機微を拾い上げる中で結果的には観る側とソフィの視点が交わる構成になっています。
父親が抱えていた不安や焦燥感、あるいは未成熟みたいなモノ。その不安定な内面を、例えば乱暴にギブスを外す姿や唐突に鏡に唾を吐きつける姿、そして何より(経済的に困窮していると思われる中で)高価なペルシャ絨毯を購入する姿など、少しずつカラムが生への執着を手放すまでの過程が情緒的に描かれています。そして、それを娘に悟られまいとひた隠しにする姿、更にそのことを父親と同じ年齢になった「今」思い返すソフィの姿が何とも痛々しく突き刺さります。
そのような何気ない出来事の連続と多くの行間に対して、終盤のダンスシーンでは解放されたカラムの気持ちをQUEENの名曲に代弁させる大胆な演出。
また中盤でのホテルの部屋でソフィがカラムに「どんな大人になりたかった?」とカメラ越しに語りかけるシーン。壁の鏡とテレビ画面内のビデオ映像。その後(カラムにより)映像を切られたテレビ画面そのものが黒い鏡となり、そこに映り込む2人の姿。この3重の画面構成など、テクニカルな面でも意図的な企みが散見されます。
最終的に2人の間に何があったのか、それからどのような月日が流れたのか、観る側には何もわかりません。その空白の物語を、こちらが構築し思い返すまでがパッケージ化されている緻密で高尚な作品です。

長編映画デビュー作にして英国アカデミーを始め、多くにノミネートされたシャーロット・ウェルズ監督の今後の作品も楽しみです。
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