みむさん

葬送のカーネーションのみむさんのレビュー・感想・評価

葬送のカーネーション(2022年製作の映画)
3.5
説明されない余白には社会背景が見え隠れするとても興味深い映画だった。

表面的には亡くなった妻の遺体を約束通り故郷に埋葬すべく老人が孫娘とともに国境を目指す、それだけなんだけど。

監督は他の場所でも成り立つ話なので舞台を特定せずに描きたかったようだが、舞台はトルコでシリアに向かっているようだ。

それがわかると他にもおのずとわかってくる。
なぜトルコにいて多言語での会話がなされているか、なぜ老人ムサと孫娘ハリメだけで娘息子(ハリメの両親)が不在なのか。火葬をしないこと、ハリメの表情なども、すべてが繋がってくる。

老人と少女の地味で静かなロードムービーだが、出会う人たちが個性的でやや賑やか。
皆がなんだかんだで二人を放っておけず優しさを見せるのも人柄だけではなく、信仰で共通しているから、皆が尊厳を守ろうとする心があるからというのも納得。

アナトリアの吹きっさらしの広大な自然の中をひたすら歩き時折車に乗っていく。

ムサとハリム、ハリムの親に何があったのか、正解は提示されないが想像すると心が痛い。

悲しい物語なのに、たまに笑っちゃう場面あり。二人の旅の結末は複雑な気持ちになったなぁ。
観た人がラストシーンどう捉えるかも興味ある。

ハリメ役のシャム・シェリット・ゼイダンは実際に難民キャンプにいた子らしい。映画出演をきっかけに人生が好転することもあるみたいだから彼女もそうなると良いね。と同時に他の子供たちのことを考えてしまう。